『カメラマン』という肩書きで、仕事ができるようになって数年。正直に言うと、それまではどこにでもいるような、ただのカメラ小僧でした。ほんの少しカメラマンに近づいたのは、出版社に勤めていた前職で、雑誌をつくっていたときのこと。人手が足りず、「カメラを持っている」というだけで、営業職だったにも関わらず、自分で撮影までを担当するようになったのです。いま思えば、それもまだカメラマンの“ような”ものでした。そんな僕が、いまではようやくカメラマンです。もちろんまだまだ学ぶことが多くありますが、これまでに得た知識や経験を、少しずつ整理していこうと思います。
計3回からなる基本編の最終回のテーマは『チームで撮ること』です。(1回目はこちら)
客観的な意見が視野を広げる
個性だけでは成長はしない
師匠の存在が道を拓く
あなたではなく、誰かのための写真である
僕が写真を撮るとき、そこには高確率でディレクターやデザイナーが存在します。もちろん、好きなように撮影をして楽しんでいた時期もありました。しかし、仕事となったら、好きなように撮れることの方が稀です。超有名カメラマンでさえも、ある程度の制約や指示のもとで、目的に沿った写真が求められます。
正直に言うと、最初の頃は、こういった状況で撮影することを、「なんて窮屈なんだ」と思っていました。
でも、実際はむしろ逆なんです。
ディレクターが全体のコンセプトや目的を明確にし、それに合わせたデザインがある。そしてカメラマンはそれにマッチした写真を撮る。
それぞれの領域が明確であればあるほど、自身の仕事の集中できる環境になります。また、それぞれに意見を出し合うことで、より高い品質を確保することも可能です。
要は客観的な意見をもらうことで、ひとりでは思いつかなかった写真ができあがるということ。
僕が依頼される撮影だと、写真は目的を達するための手段や素材でしかありません。
であれば、同じ目的を持ったチームで作り上げていく方が、よっぽど楽なんです。
骨だけでは、生きていけない
あくまで個人的な見解ですが、カメラマンには少なからず個性とかクセがあるように感じます。言い換えれば、本人の好み。
プロとアマに、機材での差がほとんどない現代においては、それこそが、カメラマンの強みになりえると思います。
しかし、その個性だけで勝負できるカメラマンは、ごく一部でしょう。
おそらく、料理専門であっても、スポーツ専門であっても、ブライダル専門であっても、個性を軸にしつつ、幅広い写真を撮れる方がよりいい。
当然、僕のような商業カメラマンであれば、より顕著です。「これ!」といった専門領域をもたないからこそ、いろいろな撮り方ができなくはいけません。
そういった状況になると、ときに個性が邪魔をします。自分の中にある正解だけで「こなそう」としてしまうのです。
どんな業種においても、あることでしょう。「こうやっておけば問題ない」という安牌を選ぶとき。
それはきっと、間違いではないのだと思っています。その時点では、それも正解です。
でも、それだけでは成長はしません。
「もっとこうしたら?」「こんな雰囲気を出してみよう」「これまでとは逆のアプローチで」とか、ちょっとした冒険が経験値になります。
そして、それを助けてくれるのが、自分以外の誰かです。
別に経験豊富なカメラマンである必要はありません。彼女でも友達でも大丈夫。いつも通り撮ってみたら「もっとかわいく撮ってほしい」と言われるかもしれません。
つまり、ダメ出しですよね。その写真では納得できないわけですから、他の方法を探ります。
そうしているうちに、これまでの自分の写真とは、少し違ったものが撮れてくるはずです。
自分よりも高みにいる存在から学ぶべし!
カメラマンという職業を目指す人の多くは、先輩のカメラマン、いわば師匠のもとで学ぶことが多いでしょう。突然、カメラマンになった僕にも、そうした「師匠」と呼べる存在がいます。
それが、ライターとして参加した案件で、写真を撮っていた木村周平さんです。(合同会社ワンダースリー)
カメラマンとしての経験も浅く、知識もない僕を、幾度となくご自身の仕事の現場に誘ってくださいました。
またそれだけでなく、セットの組み方、ロケの仕方、細かな設定、機材の扱い方、現場での立ち居振る舞いなど、惜しげもなく僕に伝授してくれたのです。
はっきり言って、木村さんがいなければ、僕はずっとカメラマンの“ような”存在だったと思います。
この連載のVol.01とVol.02で紹介したのは、個人でできることでした。
それも無駄ではないのですが、たった1回、先輩の現場に出たときの方が、圧倒的に学ぶことが多かったのです。
これまでやってきた「量をこなすこと」や「真似すること」で生まれた疑問が、一気に解けたような感覚でした。
きっと、カメラをはじめたばかりで、その道に進もうと思っている人の中には「自分だけでなんとかなる」と思っている方も多いでしょう。
でも、仕事にするのであれば、なおさら師匠の存在は重要です。たとえば、撮影の現場にも、暗黙の了解があります。それ、誰かに教わることなく、はじめから知れますか?
また、自分にとってはじめての撮影現場も、クライアントにとっては、何十回、何百回とやってきた1回かも知れません。
期待を込めて依頼をしてくれて、ギャラを払ってくれる相手に対して、自己満足の知識や経験だけで立ち向かうのは失礼ではないですか?
もしも周りに、プロカメラマンの知り合いがいるのであれば、なりふり構わず、同行を申し込みましょう。
僕も、はじめたお会いした木村さんに「荷物持ちはできます!」という無茶苦茶なお願いをしました。
それを受け入れてくれた器の大きさには、感謝してもしきれません。
「誰かに写真を見てもらうこと」の行き着く先は、「誰かの写真(を撮る現場)を見ること」なのかもしれません。
さて、次回からはもう少し具体的な内容を予定しています。
僕が使っている機材の説明や、実際に撮影した写真の解説など。
では、またお会いしましょう!
今回もすべてプライベートの写真ばかり。時期もさまざまですが、とりあえず猫を見つけたら撮るようにしています。使用機材は、「EOS 5D MarkⅢ」や「コンタックスT2」だったと思います。レンズは「EF24-105mm F4L IS USM」か「EF50mm F1.2L USM」ですね。
EF50mm F1.2L USM
183,150(税込)
50mmの単焦点レンズ。キヤノンの場合、「L」という文字が入っているものが、最上級グレードのレンズです。僕が持っているレンズの中で、もっとも使用頻度が高い1本でもあります。
参照元 https://store.canon.jp/online/g/g1257B001/