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UPDATE 2022.10.28@roppongi

Vol.04_1

アイタイスとゆかいなお客さまたち。

Graffiti Racer リリース記念特別対談
「Web3時代にエンターテイメントが提供すべき“
ゲームの先にある”体験価値。」(前編)

アイタイスの社長、雨森が、お仕事をさせてもらったクライアントと、案件進行中を振り返っていくアフタートーク連載。今回は特別編になります。2022年10月にPlayMiningよりリリースされるNFTゲーム『Graffiti Racer』の公式サイトの制作をアイタイスで担当させていただいたことをきっかけに、雨森が司会進行役を務めるカタチで、DEA共同創業者兼共同CEOである山田氏と、ゲームプロデューサーとして『Graffiti Racer』の指揮をとった清田氏のふたりの対談を収録〜掲載することとなりました。
『Web3』の世界に見出した可能性と、2022年現在から見据える未来について、時にカジュアルに、時に“激アツ”でトークは進みます。まずは前編から!

収録日 : 2022.07.22

対談メンバー

山田耕三';

山田耕三
Digital Entertainment Asset Pte. Ltd.
共同創業者兼共同CEO

戦略構築とコンテンツ事業、
メディア事業統括を担当。
プラットフォーム事業「PlayMining」での
コンテンツ開発とNFT企画を手掛ける。
NFTの可能性と有用性を啓蒙する
YouTubeチャンネル「NFTv」
Webメディア「NFTnavi」を運用。
東京大学法学部卒業。

清田貴史
Game Producer & Art Director

コーエーテクモゲームス、任天堂など日本の
大手ゲーム会社でデザイナーとして活躍後、
携帯電話向けコンテンツの
アートディレクター・プロデューサーとして
多数のヒットタイトルの企画・開発に関わる。
2017年プロデューサーとして独立後、
2018年に京都を拠点とした開発スタジオを設立。
多摩美術大学卒業。

テーマ1 『Web2.0』がもたらした恩恵と、その功罪。

『Web3』というキーワードが世の中で飛び交うようになった昨今ですが、今日は実際にその中にいるおふたりにお話していただきます。その前に、便宜上の定義にはなりますが『Web1.0』そして『Web2.0』の時代を、おふたりはどう過ごされてきたのかを、プロローグ的に聞きたいなと。
僕は大学受験に失敗して浪人生になるんですけど、予備校にあったパソコンでヤフー検索をしたのがはじめて触ったインターネットでしたね。その時は「Yahoo!」の読み方も分からなかったけど(笑)。あとね、当時は大学の授業でホームページをつくるんですよね。みんな、個人のページを持っていませんでした? 掲示板とかつくって。
ありました。キリ番とかがあってね(笑)
そうそう。でも回線もすごく遅いから、あまり活用できないんですよね。画像を1枚見るのにも、すっごい時間がかかるっていう(笑)。ちょうどサッカーの中田英寿がペルージャに移籍した頃で、試合の情報を見たいんだけど、とにかく遅い。そんな記憶があります。
僕も同じような体験をしていましたよ。ただ僕は、90年代中頃からゲーム会社でCGデザイナーとして働いていたので、インターネットの恩恵もすでに受けていました。当時は3Dゲームの黎明期だったので、勉強用に制作したキャラを自分のホームページにアップしただけで、海外からメールで仕事の依頼が来てびっくり。でも「副業」なんて概念がないから、拙い英語でお断りをしました(笑)
山田さんは閲覧するだけで、清田さんは少しだけ活用する側にいた感じですね。そしていわゆる『Web2.0』の波が到来して、SNSなどを通して個人で発信することが当たり前の時代が来ます。山田さんはテレ東時代でしょうか。
そうですね。確かに『インタラクション』という概念が、テレビマンだった僕の人生を変えたかもしれません。
当時のテレビマンにとって、インターネットというものは、敵というか、脅威を感じる存在だったのか、もしくはまったく別の世界のものだという認識だったのか、どうなんですか?
最初は誰も敵だなんて思っていなくて、「変なことをやっているな」っていう感じだったかな。でも当然、途中からはみんな身構え出しましたよね。
リアルタイムでの双方向性みたいなものは、まだテレビにはなかったわけですよね?
当時は番組放送時間中に視聴者から質問や意見、苦情なんかが電話で来るわけです。それを受ける『視聴者センター』っていう部署があって、3人くらいの女性が対応してた。ゴールデンの番組だったら回線を増やしてADも参加する、みたいな感じです。例えば『昭和歌謡大全集』っていう番組の放送中に、おじいちゃん・おばあちゃんから「こんな時代に小林旭を流してくれて、最高や!」みたいな電話が来るんですよ。
へ〜、すごい。時代ですね(笑)
すごく覚えてることがあって、僕が20代後半の時なんだけど、いつもと同じように電話がかかってきて「今うちのお母さんが『昭和歌謡大全集』を観ながら、幸せそうに亡くなりました」「最後にいい番組が見れて嬉しかったです」って言われて。僕はその経験があったから、ずっと「絶対にじいちゃん・ばあちゃんを感動させてやる!」って思ってた(笑)
それ、すごいね。
ユーザーとつながることの価値を、すでに感じていたというわけですね。清田さんはその頃、どうでしたか? もちろん当たり前のように活用していますよね?
そうですね、僕にとってはやっぱりミクシィが衝撃的でした。コミュニティを辿っていったら自分が憧れていたクリエイターさんがいたりして。あと、仕事では「ピコミク」というソーシャルゲームの原型みたいなサービス向けにFLASHでミニゲームをたくさん作ってましたよ。
ちなみに僕はWeb2.0には功罪と言える部分もあると思っています。それは「自分の好きな情報にしか接したがらない人が増えた」ってこと。そうすると「これ、めちゃめちゃ流行っていて、最高だよね!」とか言ってたとしても、そのすぐ隣にあるカルチャーには触れない、みたいなことが起こるんですよ。
なるほど。情報へのたどり着き方が、直線というか最短というか……。
そうです。それだと新しいものをつくって売り出そうとしても、同じひとつのパイの食い合いになっちゃってスケールしない。そういうマイナスの空気がエンターテインメント業界には漂いましたよね。
確かにグーグルで検索するってことは、辞書で言葉を調べて、たまたま横にある言葉も一緒に知る、みたいなことができないですね。
もちろん自分の好きなものだけに接する世界ってすごく気持ちがいいんだけど、本当に面白いものってセレンディピティ的に生まれることが多いから。昔のテレビはまさにそうでした。録画もできない時代って、親や兄弟が観ている番組を観ざるを得なくて、でも観ているうちにけっこう好きになるってありますよね? お兄ちゃんが観ていた『元気が出るテレビ』にいつの間にか自分もハマる、みたいな(笑)。だから今はいい時代なんだけど、ユーザーの視野が狭まって価値観も固定されるので、ビジネス的にスケールしにくい状態になっていますよね。

テーマ2 苦渋をなめ続けたクリエイターのために。

時代を一気に現在へと走らせましょう。山田さんはデジタルエンターテイメントアセット社をつくり、『Web3』の世界を仕事の土俵とすることになりますね。
そうですね。共同で代表を務める吉田という人がいて、2017年くらいかな? 彼のメンター的な存在だった元ソニーの社長の方から「これから『ブロックチェーン』というのが来るから、勉強しておけ」って言われたのがひとつのきっかけですね。その頃はICOブームで、企画書1枚あれば新規トークンの発行で1000億くらいのお金が動く時代でした。めちゃめちゃノリノリの時代で、でもコインチェック事件があったりして、すぐに冬の時代が来たって感じですね。
そもそも山田さんがやりたかったことや目論んでいたことと、『Web3』の世界は相性の良さみたいなものがあったんでしょうか。
ありましたね。僕はテレ東時代から一貫して「クリエイターを応援したい」っていう気持ちを持っていました。ニコニコ動画で『歌ってみた』『踊ってみた』系のコンテンツをつくっていた時も、土俵が変わっただけで、思いは変わりません。そんな中で「ボカロは作曲ができれば、まだいい。『踊ってみた』の振付師は食っていけない」みたいな悩みをよく聞いたんです。
システム的にクリエイターには還元されない世界だからね。
そうそう。同じように、絵師や動画師と呼ばれる人たちも、貢献度や影響度のわりに、みんなが苦しい生活を送っているんです。そこに対する問題意識をずっと持っていたんだけど、ブロックチェーンに出会った時に「これで解決できる!」って確信を得たんですよね。
ゲーム業界でも同じことは言えますね。大ヒットしたゲームを開発したとしても、それは会社の功績になるだけで、スタッフにボーナスが出ることは少ないんじゃないかな。音楽や文学だと創作者に著作権があるけど、ゲームクリエイターには基本的にはないからね。「こんなにヒットしたのに!」って会社に文句を言っても「その分、他にヒットしないものもたくさんあるから」って返されちゃう。それは仕方がないことなんだけど、ヒット作を産み出した人こそ「やってられねぇよ!」って辞めちゃうんだよね。
ゲーム業界あるあるだね。
そんな中で感銘を受けたのは、2000年代になって『インディーゲーム』と呼ばれるものが出てきた時ですね。要は、開発に必要なパソコンやツールの価格が下がってきて、会社に依存しなくても個人でゲームがつくれるようになったわけです。『マインクラフト』なんかはまさにその好例。その流れが海外から来て、スマホのアプリを中心に日本でも好きなゲームを自発的につくる人が増えていきました。
清田さんも任天堂で働いている時に、同じ感覚がありましたか?
ありましたね。僕はあの会社のゲームが今でも大好きだし、その思想は忘れてないんだけど、とはいえ「この会社にいても、自分の考えたゲームは一生、世の中には出ないな」っていう思いもあって。
世の中に出ない?
当時の任天堂では、企画書よりもまず遊べる状態の試作をつくって、最終的に本社の偉い方がレビューしてくださるのですが、そこで打ちのめされましたね。要求されるレベルがとてつもなく高いというか、「クリエイターとしてこのままでいいのか?」っていう思いはずっとありましたね。
ニコ動の中のクリエイターたち、そして企業の中にいるゲームクリエイターはずっと苦汁をなめてきたわけですね。
自分なりの価値観というか、手垢の残るものを作りたい人にとっては大きな組織でのゲーム開発は辛いんじゃないでしょうか。だから僕も山田さんと同じようにブロックチェーン、そして『Web3』の概念を知って、誰もがクリエイターになれる機会が増えるし、きちんと還元されて、しかも「これは自分のモノだ」っていう証明までついているということにすごい希望を見出したわけです。
確かにその“証明”という部分も大きいですよね。
そうなんです。たとえば路上で歌ってたシンガソングライターを誰も見向きもしない時から応援していたファンって、そのシンガソングライターが大成功を収めても「印税」みたいな仕組みがあるわけではないですよね。でもトークンがあれば、「私は最初からこの人を応援していました」ということが証明されて、それがものすごい価値を生むかもしれません。

テーマ3 “ルール無用の世界”で生き残るために。

あと僕が感じていたのは、単純にユーザー体験が退屈なものになるのがすごくイヤっていうのも大きくて。当たり前だけど、つくり手が適当な仕事をすると、つまらないものしか出てこない。つまりクリエイターをないがしろにすると、面白いものは世の中に出てこないわけで、これは絶対にそうです。たとえば今すごく流行っているアメリカ発の某定額制の映像配信サービスがありますよね? あそこのコンテンツの制作費はバカ高いと言われているんだけど、実際に番組制作を行っている職人にはぜんぜんお金が落ちてこない。そうすると優秀なクリエイターは食えなくなるし、日本ではやる人すらいなくなって、アジア各国に支配されてしまいます。これは業界的にもよくないことだし、面白いコンテンツが減ってしまうからユーザーとしてもよくないですよね。
良質なコンテンツをつくるクリエイターたちにお金が回るようにすることが、一般のユーザーの視点においても大事なんですね。
でも『Web3』の世界ではお金の分配のされ方が変わるから、それも解決できるかもしれないっていう話ですよね。これまで投資家のお金っていうのは、組織の上層部に入ってしまうことが多くて、つまりはクリエイターとの間で中抜きされていたんだけど、それが透明になるっていうか。実際につくっている従業員への還元率なんて、本当に低かったから。
その負の流れを断ち切るきっかけを、『Web3』の世界がつくり出すかも知れない。
そうなんです。僕はいちユーザーとしてそれに期待している。そもそも僕はすでに硬直化したエンターテインメントの世界に飽き飽きしていて、テレビでも映画でも「続編」や「リブート」にはGOを出すけど、新しいチャレンジや、時代をつくるようなムーブメントに対しては、「本当に儲かるのか分からない」って言われて封殺されがちなんですよね。それがユーザーとして、本当につまらないから。
その負の流れを断ち切るきっかけを、『Web3』の世界がつくり出すかも知れない。
そうですね。でも「Web3の世界はただただ素晴らしいものだ」っていう話になっているけど、同時に「リスクを明確にする」っていうことも非常に大事だと思っています。つまり『Web3』が切り開く世界っていうのは、今の話にあったように、これまで正当な評価を受けてこなかった人にスポットライトが当たるようになるってだけで、「誰でも稼げて、楽にハッピーに暮らせる世界が来る」ってことではないんです。ここはすごく大事ですね。これまで組織に守られて、何もしなくてもラクラク生きてきた人と、頑張って成果も出しているのに、なぜか既存のシステムのせいで評価されなかった人の両方が放たれて、「さあ自由に競え!」ってなったってことだから。
なるほど。ルール無用、弱肉強食の世界というか。
そうです。そのルール無用感を楽しめる“クレイジーな人”が『Web3』には合っているんですよね。
その通りだと思います。暗号資産って「資産運用」という観点で見ると、決して“鉄板”なわけではなくて、それを求めるならたぶん株とかやった方がいいんじゃないかな。それともうひとつ言えることは、特に今の若い人たちは、ファイナンスに関するリテラシーが高くないと老後が大変になると思うんですね。寿命はどんどん伸びているのに、社会的な保障は追いついていないわけで。特に日本は人口構造的に厳しいですよね。そういう意味で、一部の若い世代が「NFT」に注目しているのは自然の流れだと思うんだけど、そこには落とし穴があることを理解しておかないといけない。
そういう世代を相手に、悪さをしようとする人も出てきますよね。
そうなんです。“カモろう”とする大人もいるから、騙されたり搾取されたりする対象となる世代の人たちは、自分たちで勉強しないといけません。その入り口として、ゲームファイはすごくいいんですよね。だってゲームって若者だけでなく子どもはだいたいみんな好きでしょ? 好きなゲームでフィンテックや資産運用に関する知識を得られるわけで。教育という側面でもNFTゲームが貢献できることを願っています。
先ほど言ったように、ルール無用な世界なわけですもんね。自分の身は自分で守らないといけない。
そうですね。言わば “戦後の闇市”みたいなことが『Web3』では起きているから。
さらにもうひとつ、影響がもたらされるのは子どもたちだけでなく、ツイッターのトレンドワードにもあったけど「サラリーマン的マインドからの開放」っていうのもあるよね。おそらく来年、そして再来年は日本中のほとんどの人が確定申告をしないといけなくなるんじゃないかなって本気で思っています。
副業的な感じで、ゲームをすることで収入を得られるようになるわけですもんね。
そうそう。これまで副業なんかやったことのない人でも、ゲームで遊ぶことで、数十万くらいの収入が入ってくるのが当たり前の世界がくるかもしれない。
なるほど。働く、そして稼ぐという価値観にまで影響を与えると。
僕もテレ東で働いていた時は、「給料以外のお金は、1円も入ることはない」と思っていて、その金額だけで自分の人生をデザインしないといけないって勝手に信じていました。よっぽど尖った人じゃないと、副業なんかしていない時代だし、ちょっとした罪悪感もあるというか。でも「play to earn」で収入を得たって、ほとんどの人は本業と競合しないだろうし、会社から文句を言われることもないでしょ。「ちゃんと確定申告をしなさいよ」「仕事中にはやらないで」って言われるくらいじゃないかな? だから多くの人にプラスの方向にマインドセットを開かせることになると思います。

後編につづく)


『Graffiti Racer』公式サイト

SPEAKER’s Note

山田耕三';

山田耕三
Digital Entertainment Asset Pte. Ltd.
共同創業者兼共同CEO

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清田貴史
Game Producer & Art Director

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