ブックレビュー

【無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい】マニュアルは前に進む道しるべ。

田村めぐみ

田村めぐみ

UPDATE 2019.10.10

「暗黙の了解」と呼べるものが溢れかえっている世の中。会社や組織の中でも、知らない間に増えていくものです。みなさんも、なんとなく空気を読みながら仕事をすることが多いのではないでしょうか。しかし、それ、本来あなたがすべき仕事ですか? もっと質の高い仕事をするために何をすべき?? この本を読んで納得できたような気がします。

ルールの見える化はストレスを減らす。

無印良品』で有名な株式会社良品計画会長・松井忠三氏(本書執筆時)。セゾングループで実績を積んだ後、良品計画に入社します。その後、2部門の部長を経て、赤字状態だった2001年に社長に就任。売上が不調だったにも関わらず翌年には早くも増益に成功し、なんとわずか4年でV字回復を果たします。無印良品がトップブランドへと成長した秘訣が詰まった本書。著者いわく赤字から抜け出せたのは、2000ページにも及ぶマニュアル『MUJIGRAM』を導入したからだと言います。

マニュアルをつくることで、今まで暗黙の了解の上で成り立っていた業務の問題点が見えてきます。

(第1章 「見える化→提案→改善」という循環 より)

どんな企業にも少なからず『暗黙の了解』があるのではないでしょうか。例えば、始業5分前には出社して、仕事の準備をする。使ったものは元の場所に戻す。サービス業や営業の方は人一倍、服装のことも気にするでしょう。もちろん、これらは悪いことではありません。でもそれは、個人の意識としてやるべきことなのか、社内のルールとして決められているものなのか、誰も分からない。それ故に、やる人もいれば、やらない人もいる。そんなことって、ありますよね? 

私は高校を卒業して、とある設計事務所で働いていました。これは社会人1年目のことです。
社員の誰よりも早く出社し、鍵をあけて部屋を適温にし、ポットにお湯を沸かす。そして前日やり残した仕事があれは、そこで終わらせる。それが私の日課でした。ですが、こういった業務に、明文化された「マニュアル」があったらどうだったでしょうか。例えば「掃除は曜日を決めて、全員でやる」。「ポットのお湯は使う人が沸かす」……。新人にとっては、ありがたかった思います。

例えば、誰でもできるような仕事を先輩がやっている姿を見ると、部下から「すみません」という言葉が出ることがありませんか? それはつまり「私でもできる簡単なことなのに、気がつかず、すみません」という意味ですね。しかし、この“誰でもできる業務は、新人がやるべき”という概念こそが、暗黙の了解なのかもしれません。
前職における私の場合は、上司に指示をされていたわけでなく、勝手にやっていたことではありますが、全社員が働きやすい環境を整えるためにも、マニュアルが必要になるのです。

そこで、無印良品の『MUJIGRAM』です。そこには、新人教育をはじめ、接客方法や店頭のレイアウト、企画書の作成方法など、細かく決められた規定が書かれているそうです。

他店にはないものを求めてお店に来ているのに、「他店にない、無印らしさ」を失ってしまったら、無印良品で買う意味がなくなってしまうのです。

(第2章 優秀な人材は集まらない。だから「育てる仕組み」をつくる より)

今でさえ有名ブランドとして確立している無印良品ですが、ここに至るまでの苦労も多かったそう。ある時期には、お客さんから「モノトーンだけでなく、カラフルな服もあったらいいのに」という声があり、実際に販売したこともありました。発売当初は、ものめずらしさで手に取ってくれていたものの、長くは続かなかったといいます。

無印良品といえばシンプルかつ、素材感を大切にした商品展開というイメージがあります。それを大切にしてきたからこそ、幅広い層に人気があるのではないでしょうか。

この話からわかるように、変えてはいけないコンセプトや目指すものは、守っていくべきなのです。世の中の流行りは著しく変化していますが、“らしさ”はそのままで新しいことに取り組むことが大切なんですね。そういった取り決めを、どれだけ見える化できるかが重要になります。

ここで、“アイタイスらしさ”とは何かを考えたときにすぐに浮かんだのは、オフィスをきれいに保つということ。社長がかなりの整理整頓マニアなので、キッチンに貼られた当番表に従って、スタッフ全員で掃除をします。トイレ掃除に関しては、手順までが決まっているんですよ。

最近では、片付けがクセになってきたような……。

オフィスがきれいに整理された企業は、清掃に対する意識が高いだけでなく、情報発信力の高い企業でもあるのです。

(第4章 「机の上がきれいな会社は伸びる」理由 より)

ここを読んだ瞬間「まさに、自分たちのことだ!」と感じました。6月に自社サイトをオープンして以来、毎週コラムを更新していますし、SNSでは日常のことを投稿しています。経営理念の「ビジョン」の中にも「クリエイティブワークと情報発信を通して〜」と明記されています。それくらい重きを置いているのが、情報発信なのです。また、会社としての取り組みだけでなく、社長は自身のアカウントでも毎日のようにつぶやいています。

私は「情報を発信する=情報を吸収する機会が多い」ということだと思っています。投稿した記事のリアクションには、きっと自分が知らない知識もあるはず。情報が溢れかえっている今の時代だからこそ、自ら行動することが大切なのです。

わが社はクライアントだけでなく、いろんな人にアイタイスという存在を知ってほしいという意味も込めて、情報を発信しています。きっとこの先も自社サイトやSNSを使って、まじめだけどちょっとふざけた記事を世の中に広めていくでしょう(笑)

なにごとも継続が大切ですね。

ところで日本人は働きすぎと言われます。海外では、スタッフみんなが定時で帰り、仕事より家庭を優先させるというのは有名な話です。もちろん日本人だって、自分の仕事を決められた時間内に終わらせて、定時で帰るという努力は誰しもがしていること。ですが、急に仕事を頼まれたり、クライアントから予期せオーダーがあったりすると、想定していたスケジュールが乱れ、残業をすることになりますよね。最近では働き方改革で『NO 残業デー』を実施している企業も多いようですが、無印良品はさらに徹底した取り組みをしていたのです。

無印良品では、まずは「夕方には新しい仕事を人に頼まない」というルールをつくりました。

(第4章 なぜ、残業はなくせないのか より)

私はこの文章を読んだときに反省をしました。入社して半年間、私は定時で退社しています。ですが、就業時刻ギリギリに、上司に原稿を提出することが多いのも事実です。私の行動は、上司が残業をせざるを得ない状況をつくっているということに気がつきました。急ぎでなければ翌朝に渡してもいいし、都合が悪ければもう少し早く仕上げて、引き継ぐという方法もあります。自分だけでなく、周りの人も残業をしなくて済むように、協力しあうことを意識しようと思いました。

力を合わせて、よりよい環境に。

すでに動いている組織において、何かを変えるというのはとても難しいもの。新しい仕組みを取り入れると、上司や部下から反対の声が挙がることもあるでしょう。しかし、行動に移さなくては何も変わりません。

そこで、もし、やりたいことがあるのに動き出せないのであれば、まず『自分マニュアル』を作ってみてはいかがでしょうか。MUJIGRAMでは『何・なぜ・いつ・誰が』という4つの項目を最初に述べ、その後に具体的な指示が書いてあるそうです。仕事で考えるのが難しいのであれば、私生活からマニュアル化に取り組むのもひとつの手であると、本書は推薦しています。たとえば、家事。家族で共有することで、効率化をはかれると同時に、会話をするきっかけにもなるでしょう。

家事も見方を変えると、家族を結ぶコミュニケーションの場にできるのです。

(第5章 家事だって「基本」があると「応用」しやすい より)

無印良品はしくみを徹底しているからこそ、いつどこの店舗に行っても、過ごしやすい空間を提供できている。ルールの見える化をすることで、全員がストレスなく同じ作業をすることが可能なのです。
部下の指導方法や何かにつまずいている人にぜひ、読んでもらいたい一冊。これを読んで実際に店舗に行くと「なるほど」という言葉を連発しますよ(笑)

Editor’sNote

田村めぐみ

田村めぐみ

「文字の仕事をするのなら、たくさん本を読め!」ということで、ブックレビューを書くことになりました。実用書を中心に、ご紹介していきます。もし、気になる本があったら……。靴を履いて、本屋へGO! 

無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい

1,512(税込)

レビュー

38億円赤字からの「V字回復」を実現した経営者が語る、シンプルな仕事哲学。あらゆる会社・チームをよみがえらせる「仕事の仕組み」とは?「決まったことを、決まった通り、キチンとやる」だけで生産性は3倍に!