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【月刊ニシ】2021年5月「自分の写真を作品と呼べる日は、きっと来ないし、それでいい」

西村優祐

西村 勇祐

UPDATE 2021.05.18

高校1年生のころから体重が一切かわっていません。10年以上、62kgからプラスマイナス0kgです。
この話になるとどこからともなく聞こえてくる「〇〇歳超えたら太りだすよ」という、アドバイスなのか、脅しなのかわからない言葉。あれは全部ウソだと思っています。
それに太ることは悪いことじゃない。こんにちは、西村です。

さて、今回はまた写真のことを書こうと思います。
最近までちょっとした悩みがあったんですよね。
なんだか自分の撮る写真の品質にムラがあるような……。
「腕を磨け」のひと言なのですが、連休も暇なので、僕が撮影する写真について整理してみました。

※掲載している写真は公式サイトなどから借用しております。

「作品」とは言えない理由。

僕がカメラマンとして意識しているのは「作品を撮らない」ということ。
一般的ではないかもしれませんが、僕なりの明確な線引きがあります。
それは素材として成立しているかどうかです。

作品・・・作家性や芸術的観点を追求した1枚。
素材・・・使用目的に即した1枚。もしくは汎用性の高い1枚。

前提としてこのように大きな大カテゴリが存在します。
言わずもがな、僕の領域は後者を専門とするカメラマンです。

「作品」はその写真単体で価値をもつものに対して「素材」の多くは何かしらの制作物の一部を担うもの。
おそらく写真という芸術に対して興味がないのであれば、普段目にしている写真は「素材」の方だと思います。

しかしながら、この区別はかなり曖昧です。
なぜなら商業写真も、一定のラインを超えたあたりから作品として捉えられることが多いから。

たとえば大塚製薬の商品群のポスターは広告でありながら、いつも芸術的です。
僕が例に挙げるなんておこがましいですね。すみません。

大塚製薬『ポカリスエット』 出典元:
大塚製薬の広告情報サイト

大塚製薬『イオンウォーター』 出典元:
大塚製薬の広告情報サイト

大塚製薬『カロリーメイト』 出典元:
大塚製薬の広告情報サイト

大塚製薬『カロリーメイト』 出典元:
大塚製薬の広告情報サイト

別の例を上げてみましょう。
You Tubeで人気の『THE FIRST TAKE』シリーズのサムネイル画像。
スタジオで撮影されたアーティストの写真はどれもハイクオリティですが、チャンネルの撮影上、収録が終わってから撮影しているようです。
動画のサムネイル画像なので広告ではありませんが、1枚の写真を眺めていても飽きがきません。
撮影者はオーダーメイドスーツを着て撮影する、長山一樹氏。手掛けているのはTBWA\HAKUHODO。僕が例に挙げるなんて……以下略。

『THE FIRST TAKE』 出典元:
THE FIRST TAKE 公式You Tubeチャンネル

さらに別の例。
都営交通の自社広告ポスターです。
「すべての『今日』のために。」というプロジェクトなのですが、東京の電車やバスのある風景を撮影しています。
ごく日常的な視点ではありますが、どれもドラマを感じさせる魅力が詰まっていると思いませんか?
ちょっと調べてみたら、撮影者はマグナム・フォトの写真家たちでした。僕が……以下略。

都営交通 公式サイト 出典元:
PROJECT TOEI

都営交通 公式サイト 出典元:
PROJECT TOEI

さてここまでは商業写真のカテゴリでした。
この分野の中でも撮影手法や使われ方はさまざまなことがわかりますね。
そうなってくると「商業も作品なのでは?」と思うかもしれませんが、個人的な見解ではまだ素材の域をでません。
なぜなら「制作物の一部」だからです。発信したい、伝えたいことが明確にあって、それを表現するための媒体があります。
特に紹介してきたような日本トップクラスの広告であればなおさら、芸術作品のような写真ありきではなく、目的を果たすための素材として撮影された1枚だと思うほうが自然でしょう。

では2枚だけ芸術写真の例を挙げておきましょう。
まずはオーストラリア生まれの写真家ピーター・リック氏の1枚です。
ジャンルで言うと風景写真ですが、ひと目でアートっぽさを感じさせますよね。
この1枚のお値段は、なんと650万ドル!!
現時点では1枚の写真に対してつけられた最高落札額だそうです。
たしかに幻想的な雰囲気があり、ほかの風景写真とは違いますが、それにしても高い……。

photo by ピーター・リック

もう1枚は、ドイツ出身のアンドレアス・グルスキー氏の作品です。
こちらも1枚430万ドル。前述の風景写真とくらべると、なんだか普通ですよね。
ただ、これは人や建物をデジタル処理で消しているとのこと。

photo by アンドレアス・グルスキー

要するに「作品」と「写真素材」は評価軸も撮影者の思惑もまったく異なります。
そのためどこまでいっても、この2つが相容れることはないと僕は思うのです。
またその境界に対して意識的であることが、商業カメラマンとして大切なスキルだと感じます。

ただ念の為、書いておきますが、例として挙げた広告を撮影している方々は圧倒的な実績があるので、もはや素材であり、作品です。
ここでは僕の中で作品をどう定義しているかなので、異論反論あると思いますがそっとしておいてくださいね。

撮り方も使われ方も違えば、見られ方も当然かわる。

ここまでに紹介したものはトッププロの方々のもので、露出も多く、誰もが目にする機会があるものです。
当然ですが、僕にはそういった仕事が舞い込んでくるとこはありません。でもアイタイスに勤めてからというもの、無数の撮影をしていきました。

次は僕が撮影してきた「写真素材」に的を絞って見ていきたいと思います。
整理をしてみると、僕の中には大きくわけて2つの撮影カテゴリが存在することに気がつきました。

西村的カテゴライズ

素材

コンテンツ

僕が撮影してきた写真は、この2カテゴリにすべて分類されます。
弊社の制作事例とともに説明していきましょう。

【素材の場合】
東葛テクノ株式会社 コーポレートサイト

WORKSを見る

このサイトでは各コンテンツの補足のために写真を使用しています。
企業サイトの場合、ほとんどがこのパターンです。
写真をじっくりみて、楽しんでもらう、もしくはその企業に対しての理解を深めてもらうという機能はありません。

【コンテンツの場合】
ESP STUDENT BANK/東京レザーフェア・ブランドブック/O-DRIVEなど

WORKSを見る

これらのサイトで使用した写真素材は、写真そのものもユーザーに楽しんでもらうコンテンツの1つとして撮影しています。
多くは記事に使われるので、そこに登場する人や企業を写真を通してリアルに感じられることが必要です。
そのため1枚1枚のショットに「その人らしさ」や「その人がどう見られたいか」を感じられるように試行錯誤しています。

どちらもwebサイトの一部であることは変わりませんが、ユーザーの見方は違いますよね。
両方とも制作物には欠かせない素材ですが、やはりコンテンツのように撮られたものの方が見ていて楽しいのは確かです。

ムラなんてなかった!(と思いたい)

世の中のほとんどの人たちが、芸術写真に対して興味はないと思います。
それは絵画や音楽、演劇、映像など、さまざまなアートや表現の領域において同じことが言えるはずです。

その前提のうえで、日常生活を送る人がもっとも身近に目にするのが「写真素材」であり、
その中でも印象に残りやすいのが「コンテンツとしての写真」、次に「素材としての写真」。

アイタイスでの僕のスペシャリテは撮影ができることです。
ただ撮影回数が増えるにつれて、納品する写真の品質に差があるよう感じるようになりました。
いま思うとクオリティに差があるのではなくて自分の中で「素材」か「コンテンツ」かを分けていたのだと思います。

「素材」はその名の通り、料理で言うと調理されていない野菜やお肉、調味料などでしょう。
一方で「コンテンツ」はフルコースの中の1品をつくるイメージです。

すべてのカメラマンに共通する感覚だとは思いませんが、少なくとも僕はとっても納得感があります。
だってどんな撮影であっても手を抜いていなのだから、品質に差があるのはおかしい。
御託を並べるのは後にして、腕を磨けばいいんですけどね(笑)

でもカメラマンとしての自分の立ち位置と、撮る写真の使われ方を整理するだけで、だいぶスッキリした気持ちになりました。
写真はいろいろな表現ができてしまうから、無数の逃げ道があると思います。個人的にはクライアントワークにおいて、納品物を「作品」というのは逃げなんですよね。
だからこそ「素材としての写真」と「コンテンツとしての写真」をしっかりと撮り分けられるようになるのが僕の使命。

これからは撮影前のミーティングで、この2つを明確にするところからはじめたいと思います。

西村優祐

西村 勇祐

この部分のテキストはフォーマットのものでOKということに気がつきました。今さらフォーマットにするのも恥ずかしいので、これからも何かしら書こうと思います。次にこのコラムが更新されるころには30歳です。