今年の春に引っ越しをしたときのこと。わたしは、どちらかと言うとキレイ好きで、部屋は整理整頓していたつもりでした。しかし、ダンボールに詰めていく作業の中で、モノの多さに驚くことになります。もったいない精神が強いので「いつか使う」と思い、なかなか捨てられない……。そんなわたしでも、この本を読み終えた翌日、人生で初めての断捨離をすることになるのです。
外見のきれいより中身の整理
多くの企業や商品のブランディングなどを手がけている、アートディレクター・佐藤可士和氏の著書である本作。佐藤さんが従事する職業は、どちらかというと“感覚的な仕事”というイメージが持たれがちです。したがって、“整理術”と結びつけるのは難しかったのですが、第一章の冒頭部分で、このように述べています。
整理することでいちばん大切なものを見つけ、磨き上げてデザインする。それがうまくいけば、見る人にメッセージを限りなく完璧に伝えることができる。つまり、僕のやっていることは、ブランドや商品と世の中とを結び付ける、コミュニケーションデザインの仕事なのです。(第1章 「大切なのは、相手の思いを整理すること」より)
“整理”というのは、モノだけでなく自分の意志や表面化されない感情などにもいえるもの。また企画書をつくったり、商品コピーを書いたりするときに、まずは対象を深く知り、そして誰に対して、どんなイメージを伝えたいのかを考えていく工程も、整理しているといえるのです。
さらに、同じことは、違う職種にも当てはまります。たとえばアパレルの接客業では「この人は、髪の毛が長いからVネックのトップスをあわせて、顔周りをすっきりさせる」、「身長が高いから、ボトムスにボリュームをつけて目線を下に持っていく」といった具合に、相手の持つ外見的な要素を整理し、より本質的な部分を抽出することで、はじめて可能になる提案があるのです。
本書においても、必要なものをしっかりと把握した上で、意識的に優先順位を付けていくことが大切だと語られています。例えば、著者は常に持ち歩いていた自身のカバンに着目しました。デジカメやiPod、ノートに名刺入れ、そして携帯や財布など、決して身軽とはいえないアイテムの数々。そこで、本当に必要なものはなにか、“プライオリティ”をつけた結果、現在ではカバンを持たず、手ぶらの日もあるというのです。
重いカバンを持っていたときには思いもよらなかったほど、周りを見て楽しむゆとりが生まれました。精神的にものすごく解放されるのです。この気分を一度味わうと、どうしてもっと早く手ぶらにならなかったのだろう、と後悔したくらい。それ以来、手ぶらは僕の基本スタイルになりました。(第3章「“手ぶら”がもたらした、予想外の開放感」より)
「手ぶらなんて、ありえない……」と思っていた私はふと、近くにあった仕事用のカバンを手に取り、中に入っているものを机の上に広げてみました。そこに並んだのは、ペンケースに大きな化粧ポーチ、スケジュール帳に財布。考えてみると、ペンは1本でいいし、メイク道具もお直し用だけでいい、予定はスマホにも記入しているからスケジュール帳はあまり使わない……、そうして整理していくと、カバンが想像以上に軽くなったのです。「これも、あれもいる!」という自分ルールに縛られていたのかもしれません。
でも、決して“捨てる”ことが目的なのではありません。あくまでも手段なのです。「何のために捨てるのか?」といえば、本当に大事なものを決めるため。そして、大事なものを、より大切に扱うためなのです。 (6章「目的をもてば、テクニックも生きてくる」より)
私の部屋はパッと見た感じ、きれいには見えるのですが、細部まで手が届いていないことがわかってきました。佐藤さんも本作で語っていますが、“とりあえず”をなくすことを意識し、バックの整理をしたときと同じように、引き出しや、書類ケースの奥に仕舞ってあったモノを広げ、プライオリティを付けることに。
すると、約半分が「いつか使うだろう」と思っていたもので、かれこれ1年は使っていなかったり、あることすら忘れていたり……。でも心配性は一気には治らないので、捨てるではなく、保管ボックスを作ることにしました。ここに入れたものは、定期的に見直して何度も向き合うようにしています。そうすると不思議なことに、必要ないものがわかってくるのです。
このように意識的に向き合うことで、大事なものを見極める力が付いた気がします。
整理は、新しいアイデアを開く扉です。決して義務にかられて行う事務的なものではありません。それどころか、答えを導き出すための非常にクリエイティブな作業なのです。”(第6章「答えは必ず、目の前にある!」より)
わたしはこの整理術をコピーを書くときにも活用しています。
まずデスクの上を何もない状態に。そして、膨大な要素が書かれた資料を左側に、そして白紙を右側に置き、必要な情報をひたすら左から右へと書き写していき、さらに、関連ワードや連想されるイメージを、付け足していきます。すると一番伝えたいキーワードが出てくるのです。
この伝えるべきポイントが見つかったときは、魔法杖を手にしたかのように「これだぁ!」と、ペンを高く突き上げました。
さらに例をあげると、アイタイスではスタッフ全員のスケジュールを共有しています。誰が何時に打ち合わせで外出をするのか、この時間はデスクでどんな作業をしているのか。それらがひと目で分かるようになっているのです。
それでも私は、自分のタスクを整理するのが苦手。そこで一日のやることリストを書いた付箋を、PC台に貼るようになりました。終わったタスクは線を引いていくのですが、終業時間にタスクをすべてクリアすると、達成感がかなりあります。
「今日も頑張ったぞ!」と自分を褒めてあげたいくらい。
それらのタスクを、毎日キレイに処理できれば一番いいのですが、とうぜん残ってしまうこともあります。その場合は、次の日の付箋の一番上に書くようにしています。作業の合間やふとした時に、パッと付箋を見る習慣ができているので、意識的に作業に取り組めて、どうしても無理な状況のときには上司に相談するというルールに。このタスクを整理し、優先順位をつけ、見える化するという作業は、本当に効果的で、頭もスッキリするし、効率も以前より良くなっています。
オフィスや自宅はもちろん、カバンの中身、さらにはやるべきことや頭の中など、“モノ”だけでなく“コト”まで整理をする。それは“義務”ではなく、生活をより良く、そして無駄なく過ごすための“近道”なのではないでしょうか。
掃除や、整理をしたときに気持ちが晴れ晴れするのは、自分の背中をじぶんが押しているのかも。そう考えると、整理とは身の回りだけでなく、自分自身をもきれいにしてくれることだと思いませんか。
Editor’sNote
「文字の仕事をするのなら、たくさん本を読め!」ということで、ブックレビューを書くことになりました。実用書を中心に、ご紹介していきます。もし、気になる本があったら……。靴を履いて、本屋へGO!