さあ、毎月恒例の月1コラムです。
前回に引き続き、今回もメルマガの続きのお話。
メルマガでは、文章を書くことに携わる人が増えて、そのハードルが下がった今だからこそ、コピーライター出身であることに改めて誇りを持つようになった、みたいな話をしました。
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ただ、これも何回か前のメルマガに書きましたが、“コピーを書くだけ”の仕事は基本的にはお断りしているのも現実です。だから自分を「コピーライター出身です」と紹介することはあっても、「コピーライターです」と紹介することはありません。ややこしいですね。
そうです。なんというか、僕は正真正銘、プロの(元)コピーライターです。上に書いたような時代の流れの中で増えつつある「文章を書くのが好きな人」とか「人気ブロガー」みたいな人とは、ひと味もふた味も違うんだ! っていう、驕りにも似た感情が芽生えております。
初対面のお客さんからは、あまりそういう風に見られないんですけどね。どっちかって言うと「この人で大丈夫?」「ちゃんと書けるの?」って思われることの方が多いというか。
大丈夫です。ちゃんと書けます。ガッチガチの言葉のプロです。専門のトレーニングをイヤというほど積んでます。例えば行政をクライアントとしたカタ〜い文章とか、上場企業の経営理念とか、そんなものも無数に書いてきました。
ということで今回は、部下の西村(ちなみに彼もコピーライター)に「広告業界のことをなにひとつ知らない学生になった体で、コピーライターに聞きたいであろう質問をいくつか用意してくれ」とお願いをしてみました。それに回答していく形で進めてみましょう。
Q1.学生時代「国語」は得意でしたか?
中学までは我ながら「天才」と呼べるほど勉強ができたので、特に国語がっていうわけではなく、どの教科も得意でした。
高校からは恥ずかしながらまったく勉強ができなかったので、特に国語がっていうわけではなく、どの教科も赤点でした。
そういう意味では、別に得意ではなかったと思います。
そしてコピーライターにとって、国語が得意だったかどうかは、まったく関係ありません。
Q2.大学は文系ですか?
文系です。“社会学部”なるところでした。
ただ学生時代は「バンドマンになること」しか夢がなかったので、文系を選んだことに、そして社会学部を選んだことになにか理由があったわけではありません。
小学校からずっと同じ学校だった友人がひとりだけいて、高校2年(だったかな?)の文系か理系かを決める日の朝、その彼が一緒に登校している電車の中で「俺は文系」と言っていたという理由だけで文系にしました。
Q3.本はたくさん読みましたか?
大学時代にわりと読んだと思います。当時のアマゾンの購入履歴を見ると、今では考えられないくらい難しい本ばかりを買っていて、驚きました。
また同じく大学時代は、雑誌マニアと言っていいほど、さまざまなジャンルの雑誌を読んでいました。
特に好きだったのが『SNOOZER』という音楽雑誌。車に乗って本屋さんに行って、隔月で発売されていたその雑誌を必ず発売日に買い、家に帰るまで我慢することができず、車のハンドルに本を立てかけ、運転しながら読むというのが恒例行事だったと思います。(危ない!)
ただもちろんそれだときちんと読めないので、わざと信号にひっかかるようタイミングを測りながら運転して、赤信号の間に必死に読み進め、後ろの車からクラクションを鳴らされて信号が青になっていることに気づく、みたいなことをいつもしていた記憶があります。
当時の僕の後ろにいた運転手の方々、すいませんでした……。
Q4.コピーライターなら小説のような物語も書けるのですか?
書けると思っています。実際ショートストーリーみたいなものは仕事で何度も書いています。
そもそもかなり高度に専門的・学術的に振り切ったものでなければ、どんなジャンルでも、どんなトーンでも書けると思っています。
Q5.コピーライターになって活用できている経験は何ですか?(部活や趣味など、仕事以外で)
コピーライターになる前は、趣味と仕事の間くらいの感じでしたが、音楽ライターをやっていました。ただ今思うと、その当時はプロのレベルの文章は書けていなかったです。
そういう意味では、活用できていることは特にありません。
Q6.コピーライターにとって、文章力以外に必要なスキルを教えてください。
どういった依頼内容の仕事なのかにもよりますが、「言葉にする」ということは「定義づける」ということでもあり、また「コンセプトをつくる」ということでもあるので、『情報整理能力』『定義力』『プレゼン力』など、さまざまなスキルの集合体ではないかなと思います。
ちなみに意外と必要ないのは『語彙力』です。なぜなら、今はWEB上に「類語辞典」があるから。これが本当に便利です。
例えば前回のコラムに「スポーツの記事で『圧巻』という言葉を使うライターさんの記事は読みたくない」みたいなことを書いたような気がします。
とは言え、そんな僕だって何かの原稿を書きながら「あ、ここで“圧巻”的な言葉を入れたいな」と思うこともあるわけです。そんな時に登場するのが類語辞典。『圧巻 類語』で検索すれば、即解決です。ああ、なんて便利な時代。昔のコピーライターさんにこんなことを言ったら怒られたんでしょうけど……。
Q7.なにか文章力を上げるトレーニングはしましたか?
強いて言うなら、サラリーマン時代、上司からの指示で「朝日新聞のサイトを見ながら天声人語を書き写して、メールで上司に送る」というトレーニングを、3年以上にわたって、帰宅する前に毎日やっていました。ぶっちゃけコピペをしてもバレないものでしたが、それに関してはきちんとやっていた記憶があります。
その上司いわく「バンドでも最初はコピーをするやろ? 文章でも同じ。まずは上手な文章をコピーすることで〜」云々……。
(「コピー」と「コピー」がややこしい!)
Q8.ライターとコピーライターの違いはなんですか?
「ライター」というものの定義はよくわからないですが、“言葉を書く”という領域だけで言っても、「コピーライター」はクライアントからお金をもらって、クライアントが果たしたいビジネスゴールを実現するために文章を売る職業であり、だからこそ「自分がこう書きたい」みたいな思いは一切いれずに書くことができます。っていうか、そうでなければいけません。
当たり前ですが、「A」という商品をべた褒めする原稿も書けるし、同時に「A」に苦言を呈すような原稿も書けます。実際に自分がどう思っているかなんて、いっさい関係ありません。
Q9.どうすればコピーライターになれますか? 誰でもなれる職業でしょうか?
誰でもなれます。ベストセラー『伝え方が9割』の佐々木圭一さんも同じようなことを書いていたような気がします。
コピーライターになりたかったら、やはり広告系の会社に勤めることでしょうね。
Q10.コピーライターを目指すうえで、どういった人が「向いている」「向いていない」はありますか?
ないと思います。上でも書いたとおり、誰でもなれると思っています。
Q11.コピーライターは「広告の仕事」というイメージがあります。それ以外にも仕事はあるのでしょうか?
定義的に「広告のコピーを書く人」がコピーライターなので、それ以外の仕事はないです。
ですが、その「広告」っていう概念がとても広く、一般人がパッと思いつくような、いわゆる街角、駅、電車内などに貼られているポスターや、テレビCMなどでドーンと使われるキャッチコピーを書く、といったもの以外の仕事は無数にあります。
そもそも僕がやっているのもそっちがメインで、上に書いたような花形っぽい仕事はあまりやったことがありません。
Q12.コピーライターとして経験を積んだら、どういったキャリアアップが考えられますか?
クリエイティブディレクターになったり、ブランディングの領域にいったりするのが普通でしょう。
ただ例えば僕も大好きな作家、故・中島らもさんも元コピーライターなので、そういう意味では、いろんな変身ができるんじゃないでしょうか。
Q13.コピーを書くうえで、得意な分野や業界はあるのでしょうか? または必要だと思いますか?
僕はないです。「コピーライター」である僕には必要ないと思っています。
めちゃめちゃ調査をして、めちゃめちゃヒアリングをする必要はありますが、どんな分野でも、どんな業界でも、どんなトーンでも書けます。
Q14.一般人が書く文章と、コピーライターが書く文章の決定的な違いは何ですか?
何から何まで違うと思いますが、ひとつだけ挙げるとすれば、リズムじゃないでしょうか。だからこそ僕は、文章の構造や、語尾の処理にはかなりこだわるし、独自の方法論をいくつも持っています。
あとパッと思いついたのは、一般人の文章は漢字が多すぎるのと、へりくだりすぎている(敬語を使いすぎ)くらいでしょうか。
Q15.読みやすい文章とそうでないものの大きな差は何ですか?
これもさまざまな要素で決まりますが、ひとつ挙げるのであれば、構造のシンプルさ、つまり1文(「。」から次の「。」まで)の短さじゃないかなと思います。
Q16.メールや企画書などで文章が長くなります。短くまとめるコツはありますか?
それが本当にすべて伝えたいことであれば、長いこと自体には問題はないと思います。
そうでないのであれば、単純な話、いらないものは削るだけじゃないでしょうか。長くて読みやすい文章はたしかに難しいので、プロに頼むのがいいと思います。
Q17.コピーライターをしていて、楽しい・嬉しい瞬間はどんなときですか?
ひとつ思いついたのは、コピー、つまり各種広告物に書かれる“日本語”に、“はじめから”きちんとお金を払うだけの価値を感じてくれるクライアントに出会った時です。ここでポイントとなるのは、“はじめから”というところ。仮に2回目以降で「やっぱりお金を払うほどの価値はないな」と思われるのであれば、こちらに原因はあるので。そんな経験は今のところないですけど。
というのも、例えば「WEBサイトの制作」で考えた時に、『デザイン』や『コーディング』などと違って、『コピーライティング』はプロじゃなくてもできるような気がする領域なので、予算がない時などに「じゃあコピーはこちらで用意します」なんてことが時にあります。
まあ分わからないでもないですけどね。そもそもコピーを書くのに専用のソフトは必要なくて、ワードがあれば、いやそれすらなくても、スマホさえあれば書けるものだから。『お料理』とか『お笑い』とかと似ているような気がします。プロと素人の差が曖昧というか。
ただ勇気を出して、あえて断言しましょう。
プロのコピーライターじゃない人に正しい文章は書けません。
年間100冊くらい難しい本を読むような人でも、東大出身の人でも、書けません。
(ただ100%正しい文章がその場所に必要かどうかは、また別の問題ですが)
だからこそ「なんとしてもコピーはプロの方にお願いします!」と言ってくるクライアントは嬉しいし、なんとかして最高の原稿を用意しようと僕もがんばります。
逆に悲しい・辛い瞬間もあります。
それは僕が書いた原稿に対して、クライアントが直接修正を入れてきた時。その方法で修正をして、原稿の質が高まることはないと言っていいでしょう。
クライアントから「こちらで修正するので、ワードのファイルでいただけませんか?」と言われると、もう気分は最悪。修正をすればするほど、グッチャグチャになることは目に見えています。
これは決して「プロである僕が書いた原稿に、一般人であるクライアントが修正を入れるなど、どうかしてるぜ!」と言っているわけではありません。気になるところがあったら、いくらでも指摘を入れてもらっていいですし、僕は納得してもらえるまで、とことん付き合います。
問題となっているのは、その手法です。どこがどう気になるのか、修正の意図や目的を伝えてほしいわけです。それに合わせて、こちらで調整する。その方法をとれるのであれば、いくらでも修正をします。
例えば上にも書いた通り、僕は文章のリズムをとても重視するが故に、1つの文章に修正が入ったら、少なくともその前の文章と、その後ろにつづくの文章の語尾を必ず調整します。そんなことが一般の人にできますか? なかなか難しいですよね??
もう一度、言います。
プロのコピーライター以外の人に、正しい日本語は書けません。
だからこれから自社の(紙、WEBなど媒体を問わず広く)広告物をつくろうと考えている皆さん。別に僕じゃなくてもいいです。言葉の部分は発注してください。プロのコピーライターに。
そして同業者の皆さん、一般人に圧倒的な差を感じてもらえるよう、精進し続けましょう。そして当たり前のように、コピーにも相応の費用を割いてもらいましょう。
はい、今日はここまで。
そんな感じです。最後、すこし熱くなってしまいましたね。
再確認になりますが、ここまで熱くなったにも関わらず、僕はコピーを書くだけの仕事は基本的には断っているので、あしからず。
さて、今日のタイトル「I’m copywriter and welcome you to my copy」は、僕が敬愛するミュージシャン、KANの名曲「Songwriter」の冒頭の歌詞「I’m songwriter and welcome you to my song」のパロディです。YOUTUBEにこんなライブ映像があります。
見どころは2:10くらいから。2番のBメロに入ると同時にバイオリンが入ってきて、ピアノを弾きながら歌を歌うKANが、そのバイオリンの音の出どころの方を見て「ニマ」っと笑うところ。僕はその笑顔が好きすぎて、もう100回ちかく、この映像を見ています。
そう、このバイオリニスト、後にKANの奥さんになる人なんですよね。地味ではありますが、音楽史に残る名シーンと言っていいでしょう。
またこの曲、僕はKANの作品の中でも一二を争う名曲だと思っていて(代表曲「愛は勝つ」の5000倍くらい、いいですよ・笑)、特にクライマックスのこの歌詞がグッと来ます。
I’m songwriter ピアノをたたき 繰り返す表現のみが唯一存在の意義です。
どうですか? 表現者としての矜持みたいなものがストレートに描かれていて、たまりませんね。
でも部下から、もしくは発注したライターさんからこの原稿が上がってきたとしたら……
「唯一」と「のみ」は意味の重複なので、どちらかを削除するなど、正しく調整してください。
と修正の依頼を出します。コピーライターって、ややこしい職業なんですよ……。
ではまた。
Editor’sNote
五反田に小さなオフィスを構えるブランディング&クリエイティブカンパニー、アイタイスの代表です。