テーマ1『降りてきたら、行動あるのみ。』
森さんは現在、2つの法人を経営されているんですよね?
はい。まずはハワイアンフォレスト株式会社です。ここでは、「サロンドチャチャ」というハワイアンリラクゼーションサロンの運営をやっています。さらに物販とそれに伴う卸業ですね。それと一般社団法人国際セラピスト技術開発協会の代表理事も務めています。そちらではスクール運営していて、セラピストの育成や資格の発行が主な業務ですね。
サロンドチャチャは現在、何店舗あるんですか?
現在は直営店とフランチャイズを含めて21店舗です。展望としていつかは100店舗まで伸ばしたいと思っていて。
このコロナ禍の中、すごいなぁ。そもそもサロンドチャチャは、どういったお店なんですか?
国内ではじめてハワイアンリラクゼーションサロンをFC展開したお店なんですよ。「ロミロミ」ってご存知ですか? ハワイの伝統的なマッサージの手法で、直訳すると「もみほぐす」みたいな意味なんです。日本では、いろいろな解釈がされていて定義が曖昧ですけどね。
ロミロミ……。聞いたことがあるような、ないような……。普通のマッサージと比べて、どんな特徴があるんですか?
やっぱり、ハワイ独特のスピリチュアルな部分ですよね。「マナ」と呼ばれる人の手から出ているエネルギーを循環させることで治療を行います。サロンドチャチャでも一部、そういった施術をやっていますよ。
なるほど。いわゆる手技だけではないってことですね。それとマッサージオイルなどの小売ってことですか?
そうですね。店舗とオンラインで物販をやっています。ハワイやサンフランシスコなど、海外にある商品の中からよいものをピックアップして、お店でも実際に使いながら、お客さんにも提供しているんです。
そもそもどういった経緯でロミロミのサロンをオープンしたんですか?
起業する前に、いろいろな業態のマッサージ店で働いていました。その中で印象が良かったのが、ハワイアンリラクゼーションのサロンだったんです。ただ自分のお店をオープンさせた時には、「ロミロミ」という言葉は使わず、ハワイとアロマを融合させたサロンって感じでした。当時は私自身、マナのコントロールもできなかったし、ハワイにも行ったことがなくて。その後、法人化する直前あたりから、ハワイに行くようになって、スピリチュアルなアプローチもとるようになりました。
僕、普通のマッサージっていうか、いわゆる「ほぐし」みたいなのが好きで、けっこう行くんですね。そういうのと比べて、ロミロミにはスピリチュアルな部分がどれくらい入っているんですか?
う〜ん……、うちでは10%くらいかな……。
あ、それくらいなんですね。つまりは、どんなことをするんですか?
まずはお祈りです。「マハロ ヌイロア ケ アクア」というハワイの言葉を唱えます。「すべての神々に感謝します」という意味ですね。そうすることによって、「アカコード」と呼ばれるコードで人間同士がつながり、自然のエネルギーを身体に通しながらマッサージができるようになるんです。
確かに一般的なマッサージとは考え方が違いますね。
あとは呼吸ですね。お祈りと呼吸をすごく大切にしています。
なるほど。でも呼吸はスピリチュアルな効用というより、直接的に身体に働きかけるものですもんね。ただ、いわゆる普通のマッサージを受ける人って、疲労回復とか痩身とか、そういったものが目的だと思います。いわゆるスピリチュアルな部分に興味のない人も、ロミロミを受けるんですか?
ぜんぜん受けられますよ。女性は意外とみんな好きなんで。ちなみにヒーリングの手法の中には、身体にいっさい触れないものもありますし、手を当てるだけとか、アロマを垂らすだけとか、そういったものもあります。私はそうではなく、手や肘をしっかり使って筋肉やリンパにアプローチする物理的な疲労回復やリラックスをメインにしていて。そこにプラスして、そういった魂の深い部分も大事にしているんです。
何の後ろ盾もなく、ご自身で創業したってことですよね? はじめはどうやって集客をしていたんですか??
元々「知ってもらわないと、人は手に取らない」という考えはあり、広告には力を入れました。2014年の個人事業を会社にする際には、女性の自立の理念と、会社的戦略のビジネスモデルが降りて来ましたね。セラピストとしての個人事業主から会社にしたことにより経営者という自覚も芽生えました。
「マッサージをする人」としての技術力に加えて、広報とか経営っていう部分でも自分なりに戦略があったと。
そうですね。まずは広告物の写真にはすごくこだわりました。あの頃は、広告の制作会社とどれだけケンカしたか……(笑)。後は「ハワイ」というものの打ち出し方です。当時、それを押しだしているサロンって少なかったので。
ポジションニングを明確にすることで、競合がいないフィールドに立てたんですね。
確かに店舗展開しているところはありませんでした。マッサージ業界自体、個人事業主がとても多いんです。フィールドを「エステ」に移せば、FC展開しているところが多いですけどね。
現在22店舗まで拡大していますが、もともと広く展開していこうと思っていたんですか?
はい。今のビジネスモデルが頭の中に降りてきたので、そこに向かって走っている感じです。いつも漠然としたアイデアは、フワッと降りてくるんです。その後、細かいことはすごく考えないとダメですけどね。現実には、降りてくる1のアイデアに対して、10を考えないといけないくらいのイメージ。そもそも私はたくさん降りてきて、困っちゃうタイプなんです。でもやらなかったら後悔することは分かっているから、行動あるのみですよね。
行動力がすごいなぁ……。
私、若い頃に一度、離婚をしていて、その頃は本当にどん底みたいな精神状態だった時期があったんです。でもその環境から開放されたタイミングがあって、そこが人生のターニングポイントになりました。その時の私のように、いま大変な思いをしている人たちが、自分のいる環境をいい方向へと向けるためのきっかけになるような事業がしたいなと思っていたんです。
それが創業のきっかけにもなったってことですか?
そうですね。私が女性っていうこともあって、女性が生きていく中で感じる恐怖やストレスをなくすためのなにかができれば、社会はもっとよくなるし、日本、そして世界がよくなっていくのではないかっていうことが降りてきて。それを形にすることで、少しでも社会貢献ができればいいなと思って、起業したっていうのもありますね。
ってことは、マッサージというサービスそのものや、リラクゼーションサロンの運営は、あくまで手段であって目的ではないってことですか?
あ、でもマッサージ自体も目的ではありますよ。一人ひとりに癒やしを与えたり、スタッフを教育したりすることで、変えていけることもありますからね。やはり何か大きなことをやろうと考えても、日々やれることは小さなことばかりだし、自分ができることも小さなことだけ。だから、一人だけじゃなくて、仲間を集めていく必要があるので、結果的に店舗展開も必要になりました。
あ、なるほど。そうなると、数が必要ですね。
テーマ2『コロナを乗り越え、最高売上を達成。』
あと、新しい店舗をつくるのが単純に好きなんですよね。
新規店舗のオープンが好きだと。それって具体的には何が楽しいんですか?
例えば内装を考えたり、その空間に合ったアイテムを選んだり。そういう工程が好きなんです。
そもそもフランチャイズ店舗って、本部となる森さんが、どれくらいお店の方針などに介入するものなんですか?
店舗にもよりますね。こだわりの強いオーナーさんもいれば、そうでもない方もいます。でも内装なども含めて8割くらいは、私の方で決めていきますよ。だいたいは、任せてもらえるので。
物件探しとかも森さんがするんですか?
はい。開業時期を決めてオーナーさんと探すことが多いですが、最終的なジャッジは必ず私がしています。うまくいけば2〜3回の内覧で決まりますが、苦戦することもありますよ。
オーナーさんっていうのは、どういう人がなっていくものなんでしょう。
基本的には常に募集をかけています。年齢は20代から50代と様々。男性が多いですね。個人も法人もありますよ。
ってことは、募集をかけて面接をして、採用となったら、森さんが一緒に物件探しをやるってことか……。
そうですね。今は加盟開発の担当がいるので、メインはそのスタッフが対応します。
どういった方がオーナーに向いているんですか?
やはり人を雇った経験がある人ですかね。というのも、一番多いのがオーナーさんとセラピストとのトラブルなので。経営することが初めてで、雇用もしたことがないっていう人には、ハードルが高いかもしれません。
確かにその問題はありそうですね。男性のオーナーさんと、若い女性のセラピストっていう構図的に……。
そうなんですよ。それに関しては、私もなかなか介入しにくいところなので……。
今、スタッフは何名くらいいるんですか?
アルバイトを含めると40名弱ですね。
その中で、セラピスト以外、つまりマッサージをしない人は何名いますか?
私と事務、広報、そしてさきほどの加盟開発の4名ですね。ただ、広報は元々セラピストなので、指名が入った時はマッサージをしています。それは私も同じですけどね。
では経営に関わる意思決定を行うのは、森さん一人ですか?
今はそうですね。今後は私以外にも役員を増やして、資本増資も考えています。やっぱり100店舗を目指したいので。
すごいなぁ……。それってオーナーさんさえ見つかれば、割と簡単に増やせられるものなんですか?
そうですね。今は開業に向けたノウハウがきちんと出来あがっているので。加盟開発は2021年以降、さらに本格化させていく予定です。
やはりコロナはかなり打撃を受けたんじゃないですか?
そうですね。2020年は4月と5月の2ヶ月間はお店を閉めていたので、もちろんそのダメージはかなり大きいです。6月に再開させた時も「どうなるかな」って思っていたんですけど、でも店舗によっては過去最高の売り上げになったところもありました。
え、すごい! そっか。固定客に関しては、行きたくてうずうずしていたのかもしれませんね。逆にこういう時代だからこそ、心身ともに健康でいたいっていうニーズも増えるのかも。
そうなんです。時代的にパーティーはできないけど、マッサージはできますからね。確かに密室ですが、もともと1対1でやっていることなので、そこは変わりません。もちろん衛生管理は徹底していて、アルコール70%以上のものと次亜塩素酸を使い分けて、一度使ったものは消毒・取り替えを行っています。実際、6月は売上目標も達成したんです。今までと同じ意識ではやっていけないという話を何度もしましたし、スタッフみんなが頑張ってくれましたね。
再開させるときには、広告にも力を入れましたか?
そうですね。直営店もFC店も、売り上げに対するパーセンテージで広告に割く予算を決めて出稿しています。70種類くらいの広告の中から効果のあるものを抜粋しながら、店舗間と本部双方で広告をかけていきます。
そういったお店のプロモーション活動に関しても、森さんが主導でやっているんですか?
これまではそうでしたが、2020年からは広報の専任スタッフがいるので、そのスタッフと一緒にやっています。集客アップするノウハウや数字を出すためのノウハウは私の頭の中にたくさんあるので。
テーマ3『技術が発達した先には……。』
店舗が増えることによって、理念が薄まったり、サービスの品質管理ができなかったり、そういったデメリットはないんでしょうか。
もちろんそれもあります。でも今はZOOMがあるので、その恩恵をものすごく受けていますね。対面でのコミュニケーションとそれほど変わらないと感じていて。これからは技術研修でもZOOMでやっていくつもりです。
きちんとマッサージができているかどうかって、遠隔の映像でも分かるものですか?
プロの講師が見れば、8割近くは分かりますよ。やっぱり研修のための移動時間がもったいないんですよね。遠いところだと、片道だけで4時間以上かかってしまいます。それがZOOMだと始める直前まで別の仕事もできるでの。これからもっとオンラインミーティングは活用していくつもりです。
なるほど。品質管理っていう点では、むしろ追い風ってことか……。ではスタッフとは普段、どういったコミュニケーションをとっていますか?
さきほども言った通り、今はZOOMがあるので、主に各店舗の店長に対して、ほぼ毎日、何かしらの連絡をしていますね。
それは、どういった内容の連絡ですか?
本当に多岐にわたりますよ。たとえば昨日であれば、店頭に出すPOPの品質に関して。22店舗それぞれに作ってもらったんですが、あまり思わしくない出来で。これに関しては、店舗には作らせないことにしました。
なるほど。どこまでをマニュアル化して、どこまで各店舗に裁量を与えるのか、難しいところですね。
そうですね。やはりチェーン展開しているので、ポスターにしてもPOPにしても一定以上のレベルが必要です。それは内装なども含めて、お客様に見られるものすべてに言えることですね。それら店舗のブランディングに関わる部分は本部でやるということに決まりました。
放っておいたら学園祭みたいなデザインが出てくる可能性もあるってことですよね。
ほんと、そうなんです。なので、本部でテンプレートを用意して、店舗ごとに必要な部分だけを触ってもらった方がいいなと。私がデザインもできるので、これまではチラシやメニューをつくっていました。今は広報と協力して作っています。
さまざまに事業展開をしている森さんですが、今後の展望などはありますか?
やりたいことはめちゃめちゃたくさんありますよ。どんどん降ってくるので(笑)。じゃあその中で一つだけ。今後、IT技術がどんどん発達すると、自宅にいながら指定したセラピストのマッサージが受けられるまったく新しいロボットができると思います。
自宅にいながら? 指定したセラピストの……??
はい。つまり、例えば私はいつものサロンにいて、施術台の上にある人形かなにかをマッサージをする。すると、私を指定してくれたお客様の部屋にあるロボットが、私とまったく同じ動きをしてくれるわけです。
あ、なるほど! じゃあ、森さんの顧客が海外にいたとして、それでも「森さんのマッサージを受けたい!」と思った時に、そのロボットさえあれば可能だってことですね。
そうです。今、医療の手術も同じことができるようになっていますよね。ドクターの手の動きと同じことをロボットがやってくれるっていう。マッサージでも必ずそういう時代がくると思うんですね。そんなプロジェクトに携わりたいですね。
えー、すごい! それがあれば、自分に技術さえあれば、世界中から指名がくるわけですよね。しかもセラピストが移動する必要もないし。
そうです、そうです。そもそもマッサージ機って、ずっと昔からあるカタチのままで、いい加減、古いですよね(笑)。技術面も、いくら進化したと言っても一定以上にならないし、結局は人間のマッサージ以上にはならない。だったら、人の動きをそのまま表現できるマッサージロボットがあった方がいいなって。
そうすれば、人の仕事も奪われないですもんね。
しかもそれってそんなに遠くない未来だと思います。だってスマホも、これほど当たり前になっていますが、10年ほどの歴史しかないわけです。それと一緒ですよね。
確かにそうですね。そのアイデア、ここで言っちゃってパクられないですか?
もしパクられたら、そこに私が乗っかりますよ!(笑)
(おわり)