テーマ1『次亜塩素酸との出会い。』
現在は『ビクラス事業部』が確立されていますが、御社の主たる事業は、また別のものですよね?
主軸になっているのは、あらゆる流体を扱うプラントや生産設備で必要な『フレキシブルホース・伸縮継手』という製品の企画と製造ですね。かなり専門的な話になるので、詳しくは割愛します。まあ一般の方が目にすることはないものですが、皆様の生活に欠かせない医薬品や電子部品などの製造ラインで毎日使われています!
なんというか、ざっくりいうと、「配管と配管をつなぐもの」ってことでいいでしょうか。
ま、本当にざっくり言えば(笑)。ただ現在は、単に製品を作って納品するメーカーとしての機能以外の部分を強めているんです。これは、雨さんとビラクス関連の仕事をしたり、弊社のパンフレットをつくってもらったりしたことの副産物かもしれません。
「自分たちの強みは何か」ということをきちんと考え直すきっかけとなっているのであれば、嬉しいですね。
そうなんです。私たちが納品する製品のほとんどが、メーカーの依頼に合わせてつくるオーダーメイドの一点物。だから、クライアントの持っている課題を解決したり、希望を叶えたりするために、徹底的にヒアリングを行い、最適な素材や構造を提案しています。つまり、既製品を納品するメーカーというよりは、『フレキシブルホース』や『伸縮継手』を手段として、クライアントの課題に対する最適解を提供する集団なんだと認識するようになりました。
メーカーを超えた、コンサルティング領域までをカバーしている感じですかね。そうすることで、クライアントとなるプラントの価値を最大化している。
今まさにそういう流れになってきています。もともと世の中にはない代物を「なんとかなりませんか?」とお願いされて、無理矢理にでも実現してきたっていうのが、弊社の背景にあるんです。そういう意味では、本来的な立ち位置へと戻ってきたのかもしれませんね。
今では、お父さんの作った会社を牽引する存在となった秋元さんの眼光は、鋭い。
この刈り上がりっぷりは、取材だからって、散髪に行ってますね。
2019年には、主力事業のカタログの制作も発注していただきました。
そういった工業というか、産業というか、いわゆるプロの現場で、ビクラスの素となる『次亜塩素酸』が必要だったんですよね?
まあ、そうなんですけど、我々が次亜塩素酸の供給システムを扱うようになったきっかけは、実はまた別なんです。もちろん、我々の業界でマシンの洗浄や除菌に使われていましたけど、当時は「塩素」っていう認識でしかなかったんです。学校のプールで水を消毒するアレですよ。
はいはい。確かに塩素って言われると、わりと身近なところにありますよね。ってことは、「一般向けの衛生関連事業を立ち上げたい!」と、能動的に動いたってことですか?
さらに、そういうことでもなくて(笑)。今は事業部にもなっていますが、最初は、とあるつながりから発生した、ちょっとしたお手伝いというか、仕事のような、仕事でもないような……。
おお、そんなゴニョゴニョしたところから……(笑)。でも、結果的には製品化されて、がっつりお仕事になっていると。
はい。もともと会社として「社会に貢献する」という理念があるので、それを実現させるためのものとしては、かなり優秀だと思っていて。私の父である社長も興味があったんだと思います。
そうなんです。父が同窓会に出席したときに、話を持ち帰ってきて。知人の知人に、台湾で養豚場を経営している方がいて、その方が日本の畜産技術を学びたいと。というのも、豚を健康に育てたいのにも関わらず、何かしらの原因で途中で死んでしまうケースが台湾で多く見られたみたいです。
つまり、日本における畜産技術が優れているということですか?
世界的にみてもトップクラスらしいですよ。その理由が、畜舎を常に衛生的な環境に保っているからみたいなんです。そしてそこで使われているのが、次亜塩素酸だということを知りました。
そうなんです。その関わりから、次亜塩素酸研究の第一人者で、Haccpper水(=次亜塩素酸水)の生成を手がけている株式会社テクノマックスの渡辺さんという方に会いにいくことになりました。後に雨さんも一緒に会いましたよね。
渡辺さんと話を進めていくうちに、「秋元さんに次亜塩素酸水を任せたい」「自由に商品化して、売ってくれ」と言っていただき、そこがスタート地点となったんです。
なるほど。そういういくつかの偶然的な出会いがあって、自社で生成技術を持つことができたんですね。すごい展開! その後、我々に声をかけていただき、協働していくことになりました。
テーマ2『製品化に立ちはだかる、山積みの課題。』
引き継いだ次亜塩素酸水を、どのように事業化していくのか。何か構想はあったんですか?
それまでのように、工場や畜舎といった限られた場所だけでなく、一般の方々に使ってもらいたいという思いがありましたね。というのも、舐めても人体に影響がないくらい安全で、インフルエンザやノロ・ロタウイルスにも効果がある。さらに高い消臭効果を備えているんですよ? それだけ優れたものが、日常に活用できていないなんて、すごくもったいないですよね。
確かに、除菌も消臭も、多くの人の関心事なのに、次亜塩素酸はあまり知られていない現状はありましたよね。
そこが最初の懸念点でした。本来であれば、もっと認知されているはずなのに、そうではない。ってことは、そこにはなにか理由があるんじゃないかと。
その原因を探り、「一般の人に使ってもらう」ということができていない現状を打破する必要があったと。
はい。そのためには、マーケティングやブランディング、そしてデザインの力が必須だと思い、弊社の公式サイトを作ってもらった乾くんというエンジニアに相談したんです。すると彼が「紹介したい人がいる」と。ここでついに、雨さんの登場です(笑)
やっと、僕! 乾くんは、僕がずっと一緒に仕事をしていたフリーランスの優秀なクリエイターです。彼もそこから同じチームとして、動くようになりましたね。当時は僕もまだアイタイスをつくっていなくて、フリーのときでした。最初は新宿のルノアールだったような。
当時の提案資料を見ながら、盛り上がる2人。ん〜、懐かしい!
まず最初は、次亜塩素酸が持つ価値を探っていきましたよね。
そうですね。我々がこのプロジェクトを進行させたのと同じタイミングで、国内の次亜塩素酸水の市場も動き出したと思います。2016年から2017年くらいかな。
確かにその頃にPanasonicの『ジアイーノ』が発売されています。当時、一般家庭で使う除菌といえば、アルコールが主流でした。あと消臭といえば、やはり『ファブリーズ』や『リセッシュ』のようなものですよね。
はい。すでにそれらは世の中に確実に認知されていたので、明確な違いを打ち出す必要があるという前提で進めたと思います。
まずは科学的根拠に基づいた高い除菌消臭効果ですよね。そして、すでに衛生管理が徹底されている工場などの現場では使われているという実績や信頼性も打ち出したい。それをブランディングの力で、一般家庭にも受け入れられるプロダクトにするのが、我々のミッションとなりました。
あと、次亜塩素酸は噴霧して使用できるというのもポイントです。スプレータイプだけでなく、加湿器のような噴霧タイプをつくるということも、初期の段階で決まっていたと思います。まあとにかく「次亜塩素酸水を使える」っていうだけの状態から、よくあれだけの短期間で販売フェーズまでたどり着きましたよね(笑)
プロジェクトスタート時に作った提案資料があるんですが、2016年9月となっています。で、年があけて2017年1月には、商品があり、公式サイトもできていましたから。めちゃめちゃタイト(笑)
これが2016年9月の最初の提案資料(一部抜粋)。コンフィデンシャル! ……ではないので、特別に公開!!
最初にやったのはネーミングでしたね。雨さんに2回提案してもらって、たぶん10案以上を出してもらいました。いま見ても、本当にどれもいいなと思って。初回の提案だけで決まりそうだったのですが、決めかけていたネーミング案に似ている商品がすでにあったので、再提案をしてもらったんですよね。
そうなんです。商標登録されていたわけではないので強行することも可能だったのですが、もう一度、出し直しました。
2回目も5つくらいの案をだしてもらって、その中で『ビクラス』というのが光って見えたんです。一発で「これがいい!」ってなりましたね。弊社の社長にも、何も言わずに見せたのですが、同じく『ビクラス』がいいと。不思議なもので、いったん名前がつくと、すごく愛着が湧いてくるんですよね。
1回目の提案資料がこちら(一部抜粋)。まだ「bclas」はありません。
ブランド名ができて、その後、「暮らしを、美しく。」というスローガンもつきました。「菌」とか「ウイルス」「匂い」といった要素より、もっと上位概念ですね。このブランドが働きかけるのは、暮らしそのものなんだっていう。「家族が健康で安心して暮らせる」とか。「置いておくことで、友だちを招きたくなる」とか。そういう、表面的な価値とか、見た目のカッコよさにとどまらない美しさを伝えたくて。
同感です。このときに、私の中でひとつ大切なことがありました。それは「暮らしを、美しく。」であって、「美しく暮らす」ではないということ。『ビクラス』は“美・暮らす”なので、「美しく暮らす」となってもおかしくないんですけどね。
そうなんです。日本語の妙ですよね。英語にしたら、つまりは「Beautiful Life」なんですけど、でも「美しい暮らしをつくりたい」んじゃなくて、「今ある暮らしを美しくしてあげたい」んです。例えば、小さなお子さんやお年寄りがいる家庭、ペットを飼っている方など、臭いや菌が気になる環境ってたくさんあると思います。そういった方々に対して、今すでにある生活を、より快適に、安心に、そして安全にしてあげることが、この商品を通して叶えられるニーズだと思っていました。だから『暮らしを、美しく。』でないと、マッチしません。
その後、ロゴの提案をさせてもらいました。かなり色々な人の意見を聞きながら進めましたよね。僕の師匠でもある
株式会社ノティオの山田さんにも意見を聞きましたし。
乾くんは、奥さんにも電話してくれました。「どれがいいと思う?」って(笑)
テーマ3『ついにリリース! そして、これから。』
顔合わせからたった約3ヶ月で、コンセプトやネーミング、ロゴが完成して、その後、ブランドサイトの制作も発注いただきました。
丸2日に渡る撮影も行い、しっかりと作ってくれましたね。
bclas 公式サイト
あのサイトには、次亜塩素酸そのものを説明するという大きな役割がありました。そこで、このプロジェクトの初期段階で抽出した訴求ポイントをそれぞれに解説しています。ただ、これはずっと課題としてあるものなんですけど、「次亜塩素酸水」という名前はついていますが、つまりは透明な液体なので、見た目はどこまでいっても、「水」なんですよね。
そうなんです。あと、覚えてます? 当時、『水素水』というものが、割と悪い印象を伴って流行っていたんです。“水を売る”っていうのが、なかなか難しいタイミングでしたね。
覚えていますよ。だからこそ「1リットルの透明な液体を、1000円で売る」ためには、強い根拠や選ばれるために理由が必要でした。ただ「いいよ!」「おしゃれだよ!」だけでは、今のユーザーは絶対に信用しません。むしろ悪い口コミが広がるだけ。
そうですね。あの時は、我々も時間のない中で、科学的根拠や定量データ集めに駆け回りましたよ。
そうして出来上がったブランドサイト。でも、そろそろリニューアルしたい!
すこし、商品もご紹介。雨森の自宅でも会社でも、冬場は絶対に使用している噴霧タイプの「bclas mist」。
気になったところに、シュッ! スプレータイプは1番人気。白がライトで、黒がプロ。濃度が違います。
「僕のトイレに、なにするんだよー!」サイト用の撮影には、雨森の愛猫も参加してくれました。
Webだけでなく、パッケージのデザイン提案をしたり……
紙のツールも、たくさんつくりました。
また、御社の主力事業とのかけ合わせで、社会的な価値も高まりましたよね。
そうなんです。とあるタイミングから、ビクラスは弊社におけるCSR活動のような、売上げ以外の部分にも価値を見出すために、大切に育てていくべき事業だという認識が社内でも広がりました。というのは、厳密な衛生管理が求められる工業製品の分野で実績のある東葛テクノが、ビクラスという衛生ソリューションを扱うという意味ですよね。そこが行政にも評価されて『船橋 ものづくりグランプリ』を受賞することもできました。
つまり、御社がこれまで積み上げてきた実績が、一見すると透明な液体でしかないビクラスに説得力を付加した形ですね。
現場の営業マンの努力もあって、少しずつ、少しずつ、認知されていきました。
秋元さんは営業活動を行ってきた一人だと思いますが、現場での反応はどうだったんですか?
最初の頃は、なかなか大変でしたね。やはりこの商品の価値を、一般的に広めるという壁は、想像以上に高くて。それでも、これまでお付き合いのあった企業や工場、知り合いの店舗などから少しずつ広がっていったんです。
美容院やカフェなど、とても地道に営業をやっていた時期がありましたね。その中で、転機となるのは、やはりフランフランでの販売開始だったと思います。
はい。フランフランさんに関しては、もともとご縁があったわけではなく、弊社の営業マンが、「売ってもらいたい!」っていう気持ちだけで、青山にある旗艦店に飛び込み営業をかけたんです。彼の行動力が実を結んだ瞬間でしたね。
あの契約が決まったときは、みんな、祭り状態でしたよね(笑)。バイヤーさんの反応はよかったんですか?
はい。「これだけの商品に、なぜ今まで気づかなかったのか」と言ってくださって。弊社に執行役員の方を連れてきてくださるっていう、予想外の話になりました(笑)
フランフランとしても、力を入れたかったのかもしれませんね。一つの商品の仕入れに、役員レベルが出てくるって、普通はなさそうな……。
フランフランさんが掲げている“Value by DESIGN”というコンセプトに、ビクラスが合致したんだと思います。次亜塩素酸の効果効能と、製品のデザイン性ですね。
フランフラン青山店にて。大々的に展開していただきました。
秋元さんは、常にアジア各国を飛び回っている営業のプロ。優しいまなざしの中に、自信が宿っています。
ビクラスはブランドイメージを大切にしているので、「売ってくれるなら、どんな店舗でも構わない」といったスタンスではありませんでした。そういう意味では、フランフランはよかったですよね。その後も、次亜塩素酸の除菌・消臭力を活かせる場所にも徐々に展開していきました。
英才個別学院さんは、最たる例です。もちろん誰だっていつだって風邪は引きたくないのですが、その中でも、受験生は人生の中でもっとも体調を崩せない時期。そんな学生さんたちが通う環境には、ドンピシャでした。
学習塾の実績ができたことで、受験シーズン限定の商品をつくったり、LPでの展開をしたり、プロモーションの幅も広がりましたね。
コンセプトムービーもつくりました。秋元さんと雨森の両方が登場しています!
ムービー撮影時の1枚。秋元さん、さすがにリラックスしている!
指示を出す雨森の方が、かたい!?
カメラには映らない場所に、カンペのノートが立てられていたことが発覚!
一般のご家庭で使っていただきたいというのは、最初から変わらずあります。その一方で、法人での取り扱いを拡大したいですね。そのためにも、次亜塩素酸というもの自体の認識をさらに広めていかないといけません。社会の中で目にする機会を増やしたいきたいんです。
臭いや菌、ウイルスを気にする場面って、家の中以外の方が多いですもんね。
そうなんです。だから、今浸透させたいと思っているのは、『空間を選べる』という考え方。例えばお店ではタバコの分煙が当たり前になっているじゃないですか。それを除菌という側面でも実現したいんです。飲食店などで禁煙と喫煙が分かれているように、「このお店は除菌されている」っていう空間があってもいいですよね? そこにビクラスで貢献したくて。
なるほど。タバコなどの“臭いのケア”は、空間を提供する側が担っていますが、“菌のケア”って自己管理が普通ですもんね。でもそうではなくて、除菌された環境を店舗や施設がつくるっていう。そうすれば、他店との差別化にもなるし、利用者がそこを選ぶ理由にもなりますね。
まさしくそうですね。『暮らしを、美しく。』というコンセプトがありますが、“暮らし”って、家だけで完結するわけではありません。
確かに、電車などの交通機関や店舗、教室やオフィスなどが常に清潔に保たれていたら、大きな価値になると思います。
みんな、風邪を引きたくないからマスクをするわけです。そういう、社会の中に潜在的にある恐怖や不安を、ビクラスで和らげてあげたいんですよね。例えば、空港全体がビクラスで除菌されているとか。まあ、先は長いですけど……(笑)
まあね(笑)。そういった未来像がある中で、我々に期待するものってなにかありますか?
やはりブランドの立ち上げから、何から何までお願いしているので、アウトプットの統一感は非常にありがたいですね。すべてのツールに「ビクラスっぽさ」を付与してくれていて。そのトータルプロデュースには、これからも期待しております。
その根源にあるのは、立ち上げの時に、この商品が持つ価値や、事業者である秋元さんたちの思いを、ロゴやスローガンなどで可視化できたことですね。そして御社の皆さんが、それをないがしろにすることなく、ずっと愛情を持って育ててくれていることが、ブランドとしてのブレのなさにつながっていると思います。理念やコンセプトを作っても、時間が経つにつれて、少しずつ形骸化していって、ただ独り歩きしているだけのものになってしまうこともあるので。
でもそれは、アイタイスさんの管理もあってこそです。そこの信頼性は、今から他社にお願いをしても絶対に叶わない部分ですから。これからも、ビクラスを使っている人が、羨望の眼差しを向けられるようなブランドであり続けるためにも、引き続きよろしくお願いします。
はい。このプロジェクトは、大げさな言い方をすると、人類全体に向けた崇高な思いから始まっているものだと思います。もっともっと広めていきたいですよね。
じゃ、とりあえず今日も、行きましょうか。串カツ田中。
(おわり)