目次

UPDATE 2020.04.13@Seijogakuen-Mae

Vol.05

マイメンときどき、マイガール

Vol.05 ツクリビト株式会社 代表
小野裕子氏

アイタイスの社長、雨森が、自身の友人の中で、自分らしさを失わずに生きている人や、クセの強〜いお仕事をしている人などをピックアップしてお話を聞く「マイメンときどき、マイガール」。5回目となる今回は、雨森にとっては、ある種「先生」とも呼べる存在である小野裕子さんに登場いただきました。ブランディングや組織変革に携わるコンサルタントとして、さらにビジネススクールや研修講師として大活躍する、通称「ゆうこりん」から、どんなお話が聞けるのでしょうか!?

収録日 : 2020.03.16

対談メンバー

雨森武志
株式会社アイタイス 代表取締役

取材当日はとても寒い日。
にも関わらず、意外と薄着な僕を見て、
外ロケに行く際に、ゆうこりんが
無数のホッカイロを持ってきて、
僕の背中に貼ってくれました。
やっぱり、仕事ができる人は優しい人なんだ……。

小野裕子
ツクリビト株式会社

表のおふざけ、裏の大真面目を
合わせ持つ、アメヤン。対談楽しみだな。
それにしても、めちゃくちゃ寒い日に、
狙ったかのような薄着。
伊達の薄着にもほどがあるが、
身を呈してギャップ愛を表現する男。
さすが、アメヤン。

はじめに

2年ほど前に雨森が参加したとあるセミナーがあり、そこで講師をしていたのがゆうこりん。

ゆうこりんは、誰もが知っているような大企業を相手にコンサルティングのお仕事を進めるすごい人。

にも関わらず、性格はとっても気さくでおちゃめ。この日は現場作業用のワークパンツで登場。

開口一番、「私、“寅壱を履いたコンサルタント”で売っていくから!」のひとことで、場の空気を和ませてくれた。

そんな2人は、互いのことを「アメヤン」「ゆうこりん」と呼び合っている。

テーマ1『夢なし、目標なし。でもクセはある!』

ゆうこりんって、どんな子どもだったんですか? 将来、なりたかった職業とか、ありました?
それ、まったくないの。なりたいものがあったことがなくて(笑)。小学校の時は、ずっと学級委員だったけど。
イメージとしては、活発そうですもんね。
自分から立候補することはなかったけどね。まわりが「小野、やってよ」って言ってくるし「まあいいよ」って。
あまり自己主張をしない子どもだったってことですか?
変な主張はしてたかな。たとえばよく覚えているのは、幼稚園の時に思ってたこと。それは、野菜のニンジンは食べるまではニンジンだよね? それをモグモグと食べると、いつからかニンジンではなくなって、自分になる。その境界線はどこなのかなって。
幼稚園でそんなことを考えていたんですか? えらくまた哲学的な!
うん。それが不思議で不思議でたまらなくなっちゃって。周りの大人たちにも「ニンジンはいつからニンジンじゃなくなって、私になるの?」ってしつこく聞いてたの。母親もイラッとして「いつからとかじゃなくて、そういう風になってるの!」って(笑)
そういうの、子どもに聞かれて一番イヤな質問ですよね(笑)。納得できる回答は得られたんですか?
うん。ある日、ぼ~っとしていた時に、とつぜん頭に映像が降りてきて、わかった。どういうことかって言うと、ニンジンはニンジンであるための情報をたくさん持ってるよね?
どういう環境で育ってきたとか、〇〇〇〇という農家さんがつくりましたとか。
そうそう。その情報と、私「小野裕子」っていう情報とが混ざった時に、私になるんだって。すべての食べ物は情報を持っていて、その情報と自分という情報とがおしゃべりをすることで、混ざり合って、その結果、私になるんだって、急に釈然として。その時は子どもだし、語彙がないからさ。ただただ「おしゃべりをするんだ!」ってことで納得したの。
情報同士が対話することで、混ざり合うってことですね。そここそが、ニンジンが私になる瞬間だと。
そう。それで納得がいった。「栄養素」とか「消化」「分解」みたいな話はまったく刺さらなくて。そういう説明をする絵本を見せられても、ぜんぜん納得がいかない。「ぜったいに嘘だ。こんなはずはない」って思ってた。
科学的な根拠ではなく、もっと概念的な物語でないとダメだったってことですね。
うん。教科書的な説明だけだと、上滑りしている感じがしたんだよね。
それって、今ゆうこりんがやっていることとつながってますね。
そうなの。いま振り返ってみるとね。

今回の取材は、成城学園前にあるゆうこりんのオフィスにお邪魔しました!

おい、そんなポ〜っとした顔をせずに、しっかり学べよ!
高校の時も帰宅部で、何かに打ち込んでいたわけではなかったんだけど、興味関心のリズムみたいなものはあったかな。
リズム? 具体的にはどういうことですか??
例えば「あ、おでんに興味がある!」って思う瞬間がくるの。
おでん! 急におでんのことが気になって仕方なくなるってことですか?
うん。「いま、おでんが来てる!」みたいな(笑)。そうなると、家の近所にあるおでん屋さんを調べ尽くすわけ。「出汁がどう違うのか」とかが知りたくなって、昼間からおでんをつまみに一杯やっているおじちゃんたちの話を聞いたりしながら。今だったものすごいユーチューバーになってると思う(笑)
女子高校生がおでん屋さんに通いまくるわけですよね? それ、絶対に人気になりますね(笑)
そうでしょ? そうやって一通りおでんのことを知り尽くすと、自分の中で、終わった感が訪れる。その後、しばらくは淡々と暮らすんだけど、またある時、急に「肉屋のコロッケだ!」って思って(笑)。そこからは、近所のすべての肉屋さんのコロッケを食べる。後は一緒だよね(笑)
それ、ブログでやってたたら、今だったら絶対にバズります。すごい高校生!
一人の作家に興味を持ったら、その作家の本をすべて読む、みたいな感覚だよね。それがおでん屋さんだったり、お肉屋さんだったりするわけ。
すごいなぁ……。そんなクセの強い高校生活を送って、将来的に何かになりたいものは見つかったんですか?
ないない。ただボ~っと生きてるから。何かになろうとしたことは、一度もない。
やっぱり。
そういう意味では、常になろうとしているのは、小野裕子だね。
おお! 矢沢永吉みたいな!!(笑)
「小野裕子という人は、なんなんだろう」っていう自分自身への興味が尽きなくて。
なるほど。つまり、おでんなのか、コロッケなのか、芸術なのか、それらはあくまでフィルターであって、その向こう側にある自分を探している感覚ですね。
そうそう。いろいろなテーマを通して、自分を知ろうとしてた。「なんで私はこのおでんを美味しいと思うのか」「このコロッケに感動している自分っていうのはなにか」っていうこと。そうやって対話することで、自分って出来上がってくるから。例えば私はいま木彫りをやってるんだけど、何をつくるかを決めずに彫り始めるの。
「人を作ろう」とか、「果物をつくろう」とか、まったくなしですか?
うん。まったくない。なんとなく彫り始めて、見えてきた形をみながら「これはオオカミにしよう」とか考える。でも、オオカミをつくろうと思って彫っていると、また途中で形が変わってきて、それが炎になったり、鳥になったりしてく。そうやって変化していっていいの。
陶芸でも同じようなことを言いますよね。土の方から何になりたいかを訴えかけてくる、みたいな。
作品ってそういうものだよね。木を削っていく中で現れた形を、自分がどう捉えるかっていう対話の中に生まれるものだから。
マンガでも同じって聞いたことがあります。描いていくうちにキャラクター自身が物語を動かしていくから「このキャラクターは、次にどんな動きをするのかな」「どんなセリフを言うのかな」って、作者自身が楽しみになる、みたいな。そのセリフを描くのは自分なのに、むしろキャラクターに言わされる、みたいな感覚があるらくて。
うん。すごく分かる。だからね、仕事でも同じで、私の場合「こうしてやろう」って思って取り組むことなんてないの。アメヤンもそうだと思うけど、私たちはコンサルティングの領域でお仕事をしているでしょ? 一般的にコンサルタントが問題解決を行う場合って、まず自分たちで確固たるメソッドを持って、それに予めデータを当てはめていくことで、不確定要素をできるだけ排除した状態で現場に臨むわけ。でも私はそれをいっさいやらない。「不確定要素たっぷり」で中に入っていくから。
それは僕も同じように考えています。例えばブランディングのお仕事の中で経営理念を構築する際に、こちら側で準備しなくても、お客さんの中に答えはあると思っていて。だからわりとゼロベースで行くんですね。やはりほとんどの場合、経営者の頭の中に答えってあるものなので、それを整えてあげればいいと思ってて。それほど準備をしたり、競合の分析をしたりしなくても、答えは向こうがすでに持っていると思っているんです。

2人でニヤリ。悪巧みでしょうか。

こちらは、ゆうこりんの著書と、お仕事道具。きちんと「ゆうこりん」と書かれています。
特に自分で意識することなく、流されるままに、なんとなく進学していったと。その後、就職するんですよね?
うん。ある出版社に勤めていた友達が「小野ちゃん、くる?」って言ってくれて。「うん、いく」って(笑)
あ、じゃあ雑誌の編集業務をやっていたんですね。
そう。パソコン雑誌を月間で3誌だしている編集部。でも、毎日泣いてた。
仕事が面白くなかったんですか?
うん。だってパソコンにも興味がなかったし、書いてあることも全然わからない。文章を書くのも好きじゃなかったから。そこはさっさと辞めて、いわゆる制作会社に転職したの。CD-ROMの企画とかコンテンツの制作、あとはみんながこぞってウェブサイトをつくり出した時代だったから、そのディレクターとして。そこは10ヶ月くらいいたかな?
わ、そこも短い!(笑)
とあるクライアントから「小野ちゃんみたいな子は、独立するといいよ」って言われたから、「あ、そうなんだ」と思って独立したの。言われたその日に、勤めていた会社の社長に「お客さんに『独立したらいい』って言われたので、独立します」って。
えー! そんな理由、聞いたことがない(笑)
そうだよね。そしたらその社長から仕事がもらえて。その人は、私の情報整理能力をすごく高く買ってくれてたの。つまり、情報とか課題がワチャワチャしているところに、小野を入れれば整理整頓してくれる、みたいな。例えば、難しい要望を出すクライアントにヒアリングをして、「つまり、こういうことをしたいんですよね?」って目標の設定をして、そこから構成を作って、制作側がやりやすい状況をつくる、みたいな仕事をするようになった。
なるほど。それはいま僕がやっていることと似ていますね。会社が抱えている問題って、得てしていろいろな要素がゴチャゴチャと絡み合っているので、それを制作側がスムースにつくっていける状態に整理するっていう。
そうだね。で、それをやる中で、「言った、言わない」の議論をするのが大嫌いだから、全部フレームワークで進めるようにしたの。「ここで、こういう判断をしましたよね?」「だから、こういうコンセプトで、こういうデザインになったんですよね?」っていうのが、判断材料として残るように、自分でフレームワークをつくって、それにどんどん記入してくやり方にした。
おお。今につながってきましたね。
「確かに、こう判断した」みたいな確証をもらってから、次に進む、みたいな感じだね。それをやっているうちに今度は、そういったフレームワークを使った組織の動かし方をレクチャーしてほしい、みたいな人材育成とか組織に向けた教育系の仕事が入るようになって。
そのフレームワーク自体も、プロジェクトを円滑に進めるために、ゆうこりんがオリジナルで作っていったってことですよね?
うん。でもね、いま思うと、学級会とかでもフレームワークをやってたの。小学校の時に。
え、すごい! つまり、ものごとが上手に進んだパターンの再現性を高めるための方法論ってことですよね。じゃあそこから、現場の制作もやりながら、組織のチカラを高めたり、仕事がスムースに進んだりするための組織づくりに向けたことをやっていったってことですね。

テーマ2『お仕事はすべてゼロベース。すべては、なるべくしてなる。』

現在は、どんなカタチでお仕事の依頼が来るんですか? 
パターンがあるようでないかな。例えば今、東京理科大学で社会人向けにブランディングの授業をしていて、そこの受講者がいろいろと相談してくれるの。「いま、会社でこんなことに向けて、こんな取り組みをしている」って。それに対して「だったら、こういうことに気をつけて」とか「ここが肝心ですね」ってポイントを伝えてて。そうすると、その受講者の中から「会社から相談したいという話が来ている」って、仕事の受注になることがあったり。
なるほど。
つまり、教える仕事がそのまま営業になったパターンだね。講座は全6回のプログラムなんだけど、その後に連絡をいただいて、個々の会社に行くカタチ。そういうのがあるかな。あとは、財務コンサルとか人事コンサルから、紹介してもらったり。
いま「財務コンサル」とか「人事コンサル」っていう肩書が出ましたけど、それで言うと、ゆうこりんは何コンサルなんですか? 
あのね、それ、ないの(笑)。っていうと、怒られちゃうかな……。いちおう自分では「創発コンサル」って言ってる。創発を起こすコンサルタント。
創発……。一聴するとふんわりとしてますけど、それは偶発的に起きるんじゃなくて、ロジカルに起きる方法をとるんですよね?
そうだね。経営者や組織の人たちの「考え方」を揺さぶるの。考え方が変われば判断も行動も変わる。一緒に働く仲間たち、1人1人の考え方が変わり、それがかけ算を起こすようになる。簡単にいうとそれが創発。創発が起きる現場はとてもパワフルなんだよ。
なるほど。他のコンサルタントと呼ばれる人たちと比べた時に、ゆうこりんが持つ強みってどんなところですか?
まずはやっぱり「ゼロ」で行くところ。自分に決まったメソッドがあって、それにすべてを当てはめながら進めるというよりは、相手や会社、業界に対する偏見とかイメージとかをなしに、ゼロベースでお話を聴いていく。特定の業界を専門とするコンサルタントは、できるだけたくさんの専門知識を持っていることが強みなんだろうけど、そうじゃないからね。
飲食なら飲食、不動産なら不動産、業界ごとに専門のコンサルタントもいますもんね。
うん。私はそれじゃない。だからフレッシュな目でみれるのが一つの強みだと思ってるかな。
でも、丸腰でコンサルの現場に臨むっていうのは、勇気とある程度の自信が必要ですよね? 専門知識がなくても、現場で学んでいけば、価値提供できるっていう自信。
それはね、私が学ぶ必要はないから。だって、業界の知識は、お客さんの方があって当たり前。それを引き出せばいいだけだからね。それに、自社の強みとか、持続可能な価値を探るのに、業界の専門的な知識はいらないの。だから、業界情報とか専門的な知識を売りにしているコンサルタントの先生とは、仕事のやり方がぜんぜん違うと思う。

すべてのベースとなる『5グランドルール®』のポスターがありました。人形で隠れているところは「愉しむ」です。

全員必見! ゆうこりんによる『5グランドルール®』の説明動画です。これは5つのうちの「ほめる」について。

でもその分、ヒアリングはかなり慎重に行っていくんですよね?
うん。そうだね。でもそこでも私自身が何か作業をするってことはなくて、ぜんぶフレームワークを持ち込むから。しかも、別に決められたプログラムがあるわけではなくて、例えば「会社のコアとなるブランド価値を探しましょう」ってなったら、その場で「あ、この社長の感覚なら、このフレームワークだな」って決めていく。それ用の用紙も持っていかず、白紙に線を引いたり、三つ折りにして「過去・現在・未来」って分けたりしながらね。
すごい。本当にゼロベースなんですね。それでうまくいかないことってないんですか?
うん。絶対にない。だって、「うまくいかせる」っていう考え方じゃないんだもん。
あ、そっか。そこで出てきたものが、答えなんですもんね。
そう。その会社のメンバーから出てきたものを扱っていくから、「うまくいく」「うまくいかない」っていう概念がないんだよね。なるべくしてなっているから。
確かにそうなんですよね。僕も同じように思っていて、こちらが抜群に気の利いたコピーワークをしたり、なにかしらウルトラCみたいな必殺技を決めたりする必要はなくて、相手側に答えはあると思っています。それをちゃんと見える化しましょうっていう。僕がゆうこりんと同じレベルでやれているかは分からないですけど。
まぁ、私がやるわけじゃないからね。相手がきちんと思いをさらけ出したり、その取り組みに集中したり、そういったことをやりやすくするのが、私の役目。
そういったコンサルティングの仕事って、明確な終わりってあるんですか?
うん。あるよ。例えば採用ブランディングだったら、「セッションを6回やって、自社サイトの採用ページの構成をつくる」っていうところをゴールにしましょう、とか。その6回の中で、そのページに必要な材料集めを行う。採用であれば、自分たちの会社に興味を持ってもらいたい人は、なにがほしいと思っているのか、っていう相手の立場で物事を考える取り組みだよね。
それってまさにブランディングのど真ん中の考え方ですよね。
そうだね。そういうのを一緒にやって、デザインの前の構成が出来上がる。それで、いったんその仕事は終わり。で、そこまでやっていく中で、お客さんも、いろいろなことに気づくわけ。「うちの会社には、これが足りない」とか。「将来に向けて、これをやっていかないといけない」とかね。そうすると、それはそれで、また別のプロジェクトとしてやっていきましょうってことになるからね。「じゃあ、そっちもお願いします」って。自然とお仕事になっていく。
やっぱり、すげぇな……。僕もそうなりたいです!

テーマ3『共通言語で、結びつきを強める時代』

僕がゆうこりんを知るきっかけとなったのが、『ビーイングバリュー協会』という組織の取り組みの中で、ゆうこりんのセミナーを受けたところからです。当時は『ブランドバリュー協会』という名前だったと思いますが、あの協会はどういった経緯でスタートしたものなんですか?
そもそもは前身となる別の協会があって、そこでブランディングのやり方を提供していたんだけど、私がそこを卒業することになったのね。その時に、そこの受講者だったとある経営者の方が「まだまだゆうこりんから学ぶものがある」「学びの場がなくなるのはもったいないから、私に新しい協会を立ち上げさせてほしい」って言ってくれて。
そこで生まれたのが『ブランドバリュー協会』ですね。
そう。立ち上げの時のコンセプトは、ブランディングの方法を教えるのではなくて、実際の現場に課題解決の価値を生み出していくというもの。ただ学んで終わりではなくて、現場に入り込むことが狙いだったの。そのためにも、導入しやすい手順とか、フレームワークも用意して。
つまり、会議室みたいなところに集まって、セミナーをして終わり、みたいなことではなくて、実際の企業に入っていって、現場で価値創造をしていくための協会ってことですね。立ち上げはいつくらいですか?
もう4年ほど前かな? それで2年ほど活動をしたんだけど、これじゃダメだってなって。
それはなぜですか?
やっぱり、なにか団体があって、そこからライセンスが提供されるっていう、中央集権的な関係性が気持ち悪かったんだよね。“親分と子分”みたいな関係性をつくって、子分が親分のところに学びに来るっていう仕掛けをつくることが多いんだけど、そうじゃない方が好きだから。
親分のところにいるゆうこりんが、居心地が悪くなったってことですか?
うん。もっと互いに自立した関係性つくって、私が親分になることもあるし、例えばクライアントが不動産関係ならノティオの山田さんが親分になることもある。そういう自由な組織体であった方が、課題解決のスピードが上がると思って。“コンサルコロニー”的な発想だよね。「親分・子分」ではなくて、対等に、アメーバのように広がっていくイメージ。そういう形式でのコンサルティングこそが求められる時代になっていると思ったから。
これまでに見られた、「教える側・ライセンスを与える側」と、「教わる側・ライセンスをもらって活用していく側」っていう形式では、限界があるってことですね。

ビーイングバリュー協会が運営する『いちもく会』の様子。活気を感じますね!(画像は公式FBページより)

令和元年11月1日に開催された『1000年ブランドまつり2019』。中央に座るゆうこりんの表情にも気合が感じられます(同じく画像は公式FBページより)
あと、やり方を変えた理由にはもう一つあって、それは共通言語を持つことの大事さっていうのかな。
共通言語?
そう。例えばね、あるクライアントに対して、アメヤンがブランディングの仕事をしたとするでしょ? そこで構築したものを受けて、今度は私がマーケティングを考えるとなった時に、アメヤンと私が同じ共通言語を持っていれば、きちんと仕事を受け継ぐことができるよね?
確かに。そこの引き継ぎのところで、違う会社が入っていると、すごくややこしくなること、ありますよね?
そうそう。せっかくブランディングのところで、いい感じに会社としての価値を構築したとしても、別の会社が入った時に、それをグズグズにしちゃうこととか、あるでしょ? その会社からしたら、自分たちの方がうまくやっていることを証明したいんだろうけど、それってクライアントとか社会全体からすると、世に出すのを遅らせているだけで、無駄なことをしているわけ。私はそういうパワーゲームが大嫌いだから。
それぞれが、違うロジックのもと「御社の場合は、こうじゃないですか?」みたいな、自社の正しさを誇示するようなカタチですね。
それって、お客さんにとっては無益だよね。だから、言わばハッシュタグがついているカタチで、その会社が何をしたかが分かる状態をつくって、それを会社の枠を超えてみんなが理解した上で、掛け算をしていければ、お客さんのためになるからさ。それをやりたかったの。そのために、ビーイングバリュー協会っていう公正な立場で、例えば『5グランドルール®』とか、ブランディングの方法とかを決めて、同じコロニーに入っていれば、みんなが共通のメソッドを使えるっていう状態をつくりたくて。
なるほど。それは確かに素晴らしい。
それが実現すればね、例えば小さな組織のトップとか、フリーランスの人って、体調を崩して仕事ができなくなると、収入がなくなっちゃう不安があるでしょ? でも、同じやり方で仕事ができる人が代わりにやって、利益の何%かが元々の人に入ってくる仕組みをつくることもできる。自分たちの助けるためのシステムにもなるよね。さらにクライアントにとっても、それまでにやってきたことが、きちんと活かされた上で回転していく仕組みができた方がいいからさ。
じゃあそのコロニーに参加する人を増やすのが大切ですね。
そうそう。今の時代は、ひとつの組織体を大きくするのじゃなくて、結びつきを増やしていくっていう発想の事業拡大の方が大事なんだよね。そうすることで、例えばアメヤンが得意な領域もあるし、ノティオの山田さんが得意な領域とかがあって、私1人では提案できない企画もカタチにできる。もうバラバラじゃダメな時代だから。大きなひとつの玉じゃなくて、小さな玉が結びつく強さが発揮されるのが大事。
同業だからって、“競合”っていう考え方ではないっていうことですね。
うん。競合っていう発想自体を、なくすべきなの。みんなが市場を健全にしていく仲間だから。だから、安売りもしちゃいけない。一社が安売りしちゃうと、業界の価値を下げていくことになるからね。

「根のある人をつくるひと」。イラストもゆうこりんによるものでしょうか。

ためになるお話をたくさんしていただきました。
ビーイングバリュー協会の実際の取組みとして、まずは僕も何度か参加した『いちもく会』があります。あのセミナーは、どういった狙いがありますか?
まずは「誰もが経営者だ」っていうことに気づいてもらうことだね。誰でも自分を経営してるんだから。
会社の社長やフリーランスだけでなく、みんなが経営者である、と。
うん。子どもだってそうだよ。この世に生を受けた人は、みんな自分を経営しているの。自分が乗り物だとしたら、どんなエンジンを積んでいて、どれくらいの回転数でそれを動かしていくのか。そういう発想で物事を考えるのがすごく大事。なぜなら、昔と違って、ひとつの会社に勤め続けるってことが幻想になっているでしょ? 例えば、Aさんという一人を、ビーイングバリュー協会に属している3つの会社で雇う、なんてカタチも出てくるかもしれない。
自分の身の置き方っていうのは、これからどんどん改定されていきますよね。
その時に頼りになるのは、自己決定だけだから。社会とか会社は何も決めてくれなくなっちゃう。昔だったら、よくも悪くも「女の子はこういうもの。男の子はこういうもの」みたいな社会の決定があったから迷わなかったけど、今は多様性の時代だから自己決定しないといけないことが増える。だから自分を経営するチカラを高めないとね。そのために、対話をしたり、フレームワークをしたりするのが『いちもく会』だね。
あと、本当の経営者向けの取り組みもありますよね?
うん。それは『専念睦会』っていうの。経営者って、よい結果が出る方法をいろいろ探している人が多くて、例えば「A」という方法に飛びついて、「今日からAだ!」って社員に言う。それを聞いて、社員たちも「分かりました、Aですね」って動く。でも、「何か違うな。やっぱりBだな」って思ってそれを社員に伝える。すると社員は「この前Aって言ってたのに……」ってわだかまる。そんなことを繰り返していても、チームは成長しないでしょ?
ビジネス本を読んだり、セミナーに行って、良さそうな方法論をどんどん取り入れても、ダメなんですね。
そうならないように、社長みずからが方法論を編み出せるようにならないといけない。そのためには「自分たちは何者か」っていう“あり方”に立ち返る必要があるんだよね。だから「ビーイング」っていう名前に変わったの。『ビーイングバリュー』。「あり方の価値」だね。
他から持ってくるんじゃなくて、自分たちのあり方を考えた上で、自らが編みださないといけないんですね。
そうだよ。だって社長なんだから。そういう考え方を浸透させるためにやっているのが『専念睦会』なの。経営者はそれぞれに自分で運営している組織があるけど、その枠を超えて、コラボレーションしようっていう取り組みだね。例えばこの前、私はビーイングバリュー協会のメンバーと一緒に「ウェビナー」っていわれる、いわゆるオンラインのセミナーをやったの。ズームを使ってね。それって、私ひとりじゃできないし、やらない。やっぱりズームの準備をしてくれる人がいたり、カメラの構成を考えてくれる人がいるからだよね。
そうですね。
で、その時も感じたんだけど、そこには「あなた、これをやってね」「あなたは、ここをやって」って、指示を出す人が、ひとりもいないの。それでもチームがうまく進む。司令塔となる人が1人いるわけじゃなくて、「私、これが得意だから、やっておきます!」って、それぞれが自発的に行動をして運営していったわけ。そういう仕事の運び方を体感してもらうのが、大事な時代になると思うんだよね。
そういう場合って、最終的な意思決定をする人がいないと、プロジェクトが進まないと思っているんですけど、そうでもないんですか?
うん。ぜんぜんそんなことないの。目的の合意がとれていて、判断軸や共有言語が働いていたら、そのチームは司令塔がいなくてもうまくいく。そのためにも、例えばビーイングバリュー協会には「10の美意識」や「5グランドルール®」っていう共通言語がある。そういうグランドルールとか、根本的な判断軸があると、指示系統って必要ないんだって、改めてわかった。確認っていう作業が必要になるだけになるの。
根底の部分で分かりあえていれば、枝葉の部分で指示をしなくとも、ちゃんと役割分担をして、組織として上手くまわっていくんですね。
そう。そうなっちゃうのよ。
じゃあ旧来の会社的な組織も時代遅れになっていくかもしれませんね。上司と部下、みたいな。
“会社”っていうもの自体が、解体していく方向に向かうよね。それよりは、やっぱり結びつきとか、コラボレーションとかが大事になるから。その時にやっぱり共通言語が大切になってくる。
そうですね。いろいろと勉強になりました。また僕もいろいろと参加させてください! ではいま一番伝えたいことは、その辺りってことで大丈夫ですか。
いや、違う。今ね、私、“易”を学んでるの。
「えき」? あの、占いみたいなやつですか?
そうそう。すごいんだから。易は。今からそれ、語っていい? もっと長くなるけど。
……あの……、それはまた今度にしてください……(苦笑)

(おわり)

SPEAKER’s Note

雨森武志
株式会社アイタイス 代表取締役

.

敏腕・売れっ子コンサルタントであるゆうこりんと、長時間にわたって、しかも1対1でお話ができるなんて。これ、ほんとなら、めっちゃお金がいるやつですよね……。とても贅沢な、それでいて、とても楽しくい時間でした。原稿ではカットされていますが、実は「易」の話はもっと詳しく聞いていて、その内容も、めちゃめちゃおもしろかった。いつか別のコンテンツで易を扱わねば!

小野裕子
ツクリビト株式会社

アメヤンと1対1でお話したことはなかったので、どんな感じになるんだろうかと楽しみにしてました。アメヤンが、ときどき、ものすごいスピードでゴリゴリ思考しているのが伝わってきました。インタビューしているとき、この紙面を読む方のことなど繊細に考えているんだなー。愛ある対談、ありがとうございます。

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